妃・エヒメの帰省と吉備への行幸
応神二十二年三月五日、天皇は難波(なにわ)を訪れて、大隅宮(おおすみのみや)※1にいました。十四日、高台に登って、遠くを眺めました。そのとき、妃のエヒメ(兄媛)がお側にいましたが、西の方を見て、ひどく嘆きました。天皇が、どうしてそんなに嘆くのか尋ねると、妃は、
「近頃、父母が恋しくて、西の方を眺めると、ひとりでに悲しくなってしまうのです。どうか、しばらく里に帰って親の元にいさせてください」
と答えました。天皇は、エヒメの親を思う気持ちが深いことに心打たれて、
「お前は、父母に会わずにもう何年も経った。帰郷して面倒を見てあげたいと思うのは当然だ」
とすぐに許し、淡路の三原※2の海人八十人を呼び寄せて水夫とし、吉備に送ることにしました。
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