3章 創造性の重心は「大局観」にある
知的生産には広く、深い情報が必要である
前章は「ハードワーク期」における重心の話をしました。本章では「ブランディング期」を扱います。ちなみに本章はガラッと雰囲気が変わり、すこし抽象的な話をしていきます。
先に結論だけ述べておきましょう。ブランディング期の要となるキーワードは、「創造性」です。
ハードワーク期の仕事は、すごい人から流れてくるものでした。しかしブランディング期は、自ら仕事を創り出すものです。そこで創造性を発揮できなければ、埋もれていくだけです。
Q.「創造性」とは何でしょうか?
逆から考えたほうがわかりやすいかもしれません。創造性がなくても大丈夫な仕事とは、「こなす仕事」です。
仕事の流れを「インプット」→「プロセス」→「アウトプット」とすると、こなす仕事はいわゆるルーティンワーク、定型的にこなすことができます。
いろいろな手続きがあり、技術も必要だと思いますが、基本的に一度できるようになれば、再現が可能な仕事です。
一方で、創造性を発揮する仕事には定型がありません。それは「工業生産」と「知的生産」の違いだと言い換えることができるかもしれない。
「工業生産」におけるインプットは材料であり、工程が事細かに決まったプロセスに乗せれば、商品が生まれます。一方、「知的生産」におけるインプットは、情報です。その情報について思考するというプロセスを通して、付加価値のある知識をアウトプットしていく。
「知的生産」はインプットにいくら時間をかけても、思考するクオリティが低ければ価値にはつながらなかったりします。また、思考するクオリティが高くても、そもそもの情報で負けていることがあります。
そこで、まずは「よい情報」を手に入れることが大事です。「よい情報」とは何か?「広く、かつ深い情報」だとここでは定義します。
深い情報を手に入れようとするなら自分の興味や関心を突き詰めていけばよい。しかし、広い情報を得ようとすると、自分がまったく興味のないところにまで手を広げなければいけない。
では、広い情報を得るために必要なことは何か?それは「視点の高さ」です。すこし、抽象的な議論が続いたので、ここまでの流れをいったん問答にまとめます。
Q.創造性とは何か?
〉〉〉A. 工業生産ではなく、知的生産に必要なもの
Q.知的生産とは何か?
〉〉〉A. 情報をインプットにして、非定型なプロセスでアウトプットする仕事
Q.知的生産の質を左右するよい情報は何か?
〉〉〉A.広く、かつ深い情報
Q.広い情報を得るために必要なことは何か?
〉〉〉A.視点の高さ
では、さらに問います。
Q.視点の高さとは何か?
こう考えるとわかりやすいかもしれません。新人の頃は与えられた「作業」に従事します。しかしマネージャーになると「事業」を見なければならないし、経営者になると「企業」や「産業」という視点から物事を見る必要があります。このようにして視点が上がれば、当然視野は広がり、得られる情報が広くなっていきます。
とくに「産業」の視点から物事を見る人は、自然と「産業の構造」にも関心を持つようになる。「他の産業はどうなっているのかな?」と気になり出して、それまで自分の「事業」には関係ないと思っていた情報が、関係のあるものとしてどんどん入ってくるようになります。
どれか一つだけではあまり意味がありません。「事業・企業・産業」を等分に視野に入れてこそ「広く、かつ深い情報」が得られます。その先に、創造性を発揮するチャンスが開けてくる。
今は、デジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXによって、産業構造が劇的に変化しています。もう先端分野ではすでに訪れている「AI時代」が到来すれば、知的生産の重要性が増すことは目に見えています。
ハードワーク期を終え、ブランディング期を迎えたビジネスパーソンにとって必要になってくるのは、こうした「視点の高さ」であることは間違いありません。
すべては「コンセプト」から始まる
もともと私が社会人になったのは28歳でした。日本社会ではだいぶ遅いスタートと言えるでしょう。そんな私が「創造性」を鍛えるために行ったのは、「この人はすごい!」と心から思えるイノベーターにお会いし教えを請うことです。直接お話を聞くだけでなく、実際にイノベーターの方々が企業や政府と仕事をする様も間近で観察させてもらいました。
中でも最大の衝撃は、私が師と仰ぐビジネスデザイナーの濱口秀司さんです。
USBメモリやマイナスイオン・ドライヤーをはじめとする無数のアイデアを発案・実現させてきた、日本が誇る世界的なシリアル・イノベーターです。
どのぐらい衝撃が大きかったかというと、私が考える知の三巨人は、デカルト・ベーコン・濱口秀司であると言って憚らないぐらいです。
デカルトの演繹法、ベーコンの帰納法に次ぐ、「バイアスブレイク」という思考法を編み出したのが濱口さんです。それぐらい濱口さんは革新的です。「バイアスブレイク」については、ぜひ濱口さんの論文集『SHIFT:イノベーションの作法』(ダイヤモンド社)をあたっていただくとして、そんな濱口さんの創造性にまつわる思考の一端をご紹介します。
濱口さんはこう言います。どんな会社でも、まずコンセプト(Concept)を作り、次にそれを実現させるための戦略(Strategy)を策定し、その中から意思決定(Decision)して、実行(Execution)に移すというプロセスで物事は進んでいく。
もう少し嚙み砕いて言うと、まずは個々のビジネスの根幹となるコンセプトを発想し、それを実行するために考え得るいくつかの戦略的プランから、意思決定で一つを選んで、具体的で実務的な作業へと移る。
濱口さんはこの「C→S→D→E」のサイクルをヨコ軸に置き、タテ軸に「自由度」と「資源配分」を置いて次の図を説明してくれました。
当たり前ですが、コンセプトってなんでもアリで、無限に近い自由度がある。その一方、実行のフェーズでは自由度が限りなく低くなる。実務的な作業を行うときに、自由度があったら困ってしまいますからね。例えば会計処理の仕方に、人によって方法論が無数にあったら相当困ったことになります。
そうです。自由度が高い仕事は、創造性が確実に必要です。そして、自由度が下がれば、創造性がなくてもこなせる仕事になっていきます。
もう一つの軸である「資源配分」は、C→S→D→Eの各ステップにおいて会社がどれくらい人やお金を割くかを表しています。実行フェーズでは、自由度の少なさに反比例するように、多くの資源が投下されます。やるべきことがはっきりしていますから、人海戦術が可能になります。逆にコンセプトのフェーズで時間や人やお金を使いすぎると、実行にリソースが割けなくなり会社全体として結果が出にくくなってしまう。
つまり、すべてはコンセプトから始まるのです。そして、コンセプトを作るには高い創造性が求められます。
ビジネスのコンセプトはどう作ればいいのか
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