10年先の目標がポエムになる理由
ここまで1日、そして1週間というスケールにおいて、重心がどこにあるのか見てきました。次に見ていくのは、いきなり飛んでいるようですが、3年~10年です。なぜ、このような幅をもった時間を想定しているかというと、次のようなジレンマに私自身が遭遇したからです。
「現実から積み上げていっても、明るい10年後が見えない」
具体的にお話しさせてください。人は誰しも、すこし先の未来、例えば「10年後の自分」について想像することがあると思います。
それをぼんやりイメージした場合、今よりずっと成功している「夢」の姿になるわけですが、悪い意味でのポエムにしかならないことが多い。10年というスケールは個人的にも社会的にも不確定要素が多すぎて、そのために今から何をしていけばよいのか、逆算するイメージができません。
もちろん「10年後の自分」を想像すること自体は大事なんですが、それはあくまでも北極星のようなものです。逆算するものではなくて、見上げるもの。「前方に北極星が見えるから、北には進んでいるな」というぐらいの目印です。
一方で、現実から出発して1年後の自分や会社がどうなっていくか想像を重ねていっても、どうしたって低空飛行になるというか、たかが知れた10年後にしか到達しません。
では、普通の人とすごい人では、何が違うのか?
幸いなことに私はさまざまな仕事を通じて、国内外のすごい人たちと接する機会があります。それを利用して、彼ら/彼女らの思考パターンを分析した結果、次のことに気が付きました。
Q.すごい人はどう計画を立てているか?
〉〉〉A.すごい人は、3年プランの立て方がうまい
例えば、2014年4月に資生堂の社長に就任した魚谷雅彦さん。就任早々、2015年度からの「3カ年計画」を発表して、ハイレベルな目標を見事に達成しました。2018年度から「新3カ年計画」をスタートさせており、そのプランニングの確かさに注目が集まっています。
すごい人は3段階で計画を立てている
では、すごい人はどのように3年プランを計画しているのでしょう?
私たちが参考にできるようなポイントを一言で言うと、次のようになります。
「普通の人もすごい人も、1年後のプランは大して変わらない。でもすごい人は、2年後、3年後のプランニングがうまい」
すなわち、すごい人の3年プランは、「積み上げ型」というより、非連続成長をする「レバレッジ型」だということです。1年目の投資の時期はまだ結果は出ない。2年目にやっと結果が出始める。3年目にその結果が次々と拡大していく。
では、すごい人はどのようにして3年プランを立てるのか。通底するキーワードを整理すると、次のようになりました。
1年目:準備する(種を蒔く)
2年目:始める(芽が出る)
3年目:広げる(花が咲く)
もう少し仕事に置き換えるとこのようになります。
1年目:Build期(組成する)
2年目:Model期(定型をつくる)
3年目:Scale期(拡大する)
つまり1年目は、何をするかを計画するよりも、誰とするかを計画する「Team Build」の時期です。2年目は、スケール可能な「Model」を作る時期。そして3年目にいよいよ「Scale」していく。これは言い換えると次のようになります。
1年目の重心:Who(誰とするか?)
2年目の重心:What(何をするか?)
3年目の重心:How(どのようにするか?)
こういわれると、「そんなの当たり前じゃん!」と思われる方がいます。きっとうまく3年プランが立てられている方なのでしょう。しかし私はこのような単純なことにすら考えが至らず、なんとなく1年単位で物事を計画しては「今年も大したことを成せなかった」という反省を繰り返していました。
ところが、ここまで述べてきたような戦略に基づき3年プランを行うと、その難しさを痛感するとともに、「何でこんなに大事なことを誰も教えてくれなかったのか!」とその威力に驚いてもいます。きっと私のように「3年プランの戦略」を持っていない方もいるだろう。そう思って、こうしてご紹介している次第です。
ちなみに便宜上「3年プラン」としましたが、もっと年数をかけて考えてみてもいいですし、時間がない、もしくは仕事の粒度が小さいという人は「12ヶ月を三分割」というイメージでもいいかもしれません。4ヶ月目でここ、8ヶ月目でここ、12ヶ月目でここ……と順に段階を考えていけば、薄ぼんやりしていて見えないと思っていた未来が、クリアに見えてきます。
さて、もっと話を進めましょう。すごい人の上には、「もっとすごい人」がいます。おそらく人類の中でも一握りしかいないであろう「もっとすごい人」は、次のような離れ業をやってのけます。「3段階のプランニング」これが意味するのは、次の通りです。
「3年後のプランニングができれば、その先の3年、さらにその先の3年もプランニングできる」
これが3段階のプランニングという意味です。
この3段階のプランニングができるようになれば、「10年後」の未来にかなり近づけます。
この思考法は、パナソニックの伝説のエンジニアとして知られる、大嶋光昭さんから学びました。日本が世界に誇るシリアル・イノベーターである大嶋さんは、例えば私たちのカメラに入っている「手振れ補正機能」などの発明者です。
大嶋さんにお会いした時、最初の3年から次の3年、さらに3年の「9年プラン」で北極星まで行けるというお話を伺いましたが、さすが天才の所業だと思います。そして図を見てもらえれば明らかなように、この1年~10年というスケールにおける重心は、「2段階目の目標をどう設定するか」です。
なぜかというと、理由は2つあります。一つ目の理由は、2段階目の目標が明確だからこそ、10年後の未来に届きそうだという確信が得られることです。もう一つの理由は、2段階目の目標があるから、じゃあ3年後の目標は何にしたらいいのかという逆算が可能になるからです。
こうして「いま」と「途方もない10年後」が一本の線でつながるのです。
イーロン・マスクのすごいプランニング
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