環ROY(ラッパー)→角田光代(小説家) Vol.3「どんな小説を書いていきたいですか?」

今回インタビュアーとして登場するのは、今年4月に4枚目となるオリジナルアルバム「ラッキー」をリリースしたラッパーの環ROYさん。ヒップホップの解釈を押し広げながら、精力的な活動を続けている環さんがインタビュー相手として指名したのは、「空中庭園」「八日目の蝉」「対岸の彼女」など数々のベストセラー作品を世に送り出してきた作家・角田光代さん。同じ言葉を操る仕事を生業とし、人生の先輩でもある角田さんに、果たして環さんはどんな質問を投げかけるのでしょうか?

観察することに意識的ですか?

Q.角田さんの描写を読んでいて、日常に対する微細な表現が本当に巧みだなと感じました。乱暴に言うと、あるある感が半端ではない。これは観察するという行為から来るのでしょうか? そして観察には意識的ですか?

角田:そんなに意識しているわけではないですが、私は短気なので、街を歩いている時とかでも、ちょっとしたことでイラッとすることが多いんですね。その時にイラッとしたことを覚えておいて、その原因は自分にあって、相手の人は正しかったと考えるようにしています。例えば、往来で奥さんを大声で怒鳴りつけている初老の男性ってたまにいるじゃないですか。そういう人を見るともの凄く怒りを覚えるんですけど、そのおじいさんがそういう行為をするに至った理由や、奥さんとの関係性というものもあるだろうし、なるべくそういう要素をフラットにした上で、覚えておくようにしているんです。




Q. こっちからしたら完全に「ジジイ、悪いヤツ! ムカつく!」ってなるけど、そこに至った理由を考えてみたり、その行為を許容している奥さんの存在というのを、なるべく俯瞰して見てみるということですね。僕も自分のことを掘り下げる時にかなり近いことをしているので、共感します。特に自分のことだとウェットになりがちなので、なるべくそれを抑えてドライに、フラットにしていくというか。でも、ずっとそんなことばっかりやってきちゃったんで、最近はいい加減もうやめようと思っているんです。

角田:お互いに物事を後から客観視するところがあるんですね。その前段階として、何かが起きた直後は、自分が悪かったと考えるタイプですか?

Q. 記憶が曖昧なくらい昔のことは自分が悪かったと考えることが多いけど、その場ではお前が悪いだろって思いがちですね。例えば、電車の中で電話しているヤツがいたらやめてよって言うし、並ばないヤツには並んでよって言う。その場でそれをやっちゃうから、クリエイトの種がどっかにいっちゃうのかもしれないけど(笑)。僕も角田さんと一緒で怒りん坊なんだけど、「僕が正当な手順をたどっているのに、お前はルールを無視していて許せない!」みたいな幼稚な衝動が働くんです。それは正義漢とかではなくて、どちらかというとルールを守るのが苦手な僕ですら社会にソーシャライズされているのに! という被害者意識だと思うんですね。社会に対して感じている窮屈さみたいなものがそういう時に出ちゃうんじゃないかなと。



角田
:私も以前に、なんでもかんでも些細なことで怒っているという話を友達にしたら、それは世の中に対する信頼があるからだと言われたんです。その時はあまりピンと来なかったんだけど、いまの話を聞いていてわかった気がします。みんなが守っていることは当然であってほしいし、だから自分もやっている。でも現実は違うんだ、という時に信頼が裏切られたような怒りが沸き起こるのかも (笑)。

Q. 良く言えばお互い、社会に対する解釈がピュアで、悪く言うとユートピア思想が過ぎるのかもしれませんね。僕は「ジャンプ」で育っているから、友情とか努力を大切にしてたら楽しく生きられるという思想が基盤にあるのかもしれません(笑)。だから、自分の好きな物語が傷付けられたように感じて怒っているんだと思います。
 

どんな小説を書いていきたいですか?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
いま、僕たちが話を聞きたい人

カンバセーションズ

インタビュアーという存在にスポットを当てるこれまでにないインタビューサイト「QONVERSATIONS(カンバセーションズ)」。毎回異なるクリエイターや文化人がインタビュアーとなり、彼らが「いま、本当に話を聞きたい人」にインタビューを...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード