"障害者の家族"と思われることが嫌なんじゃなくて、"かわいそう"と思われるのが嫌

幡野広志さんの『なんで僕に聞くんだろう。』発売を記念して行われた幡野さんと岸田奈美さんの対話は3回目。作家として生きていくことを決めた岸田さんは、幡野さんになにを問いかけるのでしょうか。幡野さんの連載の最新回は、こちらからどうぞ。(撮影:幡野広志)

障害のある家族の作家という先入観

「家族のことを記事に書くのは楽しいんですけど、“障害のある弟の姉”“障害者のある母の娘”っていう先入観がついちゃうのが、ちょっと居心地が悪いんです」

私が相談すると、幡野さんはちょっとびっくりした顔をした。

「僕ね、奈美ちゃんはもしかしたらそう思ってるんじゃないかなって、ちょっと考えてた。だけど、同じような悩みを持ってる人は、なかなかこんなド直球な相談はできないと思うな」
「えっ、そうですか?」
「うん。だって、お母さんたちも読むわけでしょ?」

なるほど。
こういう相談をした場合、母と弟が傷つくのではないか、というのが世間一般的な発想のようだ。
でも、私は、二人が傷つくイメージがまったく沸かなくて、幡野さんに言われて初めて気がついた。傷つくどころか、二人も私にそういうイメージがつくのを望んでいない確信がある。

「自覚がないのが、奈美ちゃんらしいね」
「なんでだろ。うちの母も弟も、自分のことを“障害者”って、あんまり思ってないからかもしれないですね」

弟にいたっては多分、自分に障害があることすらよくわかっていないと思う。
言葉がわからなくてもボディーランゲージとハートでどないかなるやろ、を地で行く弟だ。実際にそれで、うまいこと楽しそうに生きている。
母は毎日のように全国を飛び回っているし、一人で車いすを担ぎ上げて車に乗って、自分で運転してどこへでも行く。私はそんな母をゴリラと呼んでいる。
私が献身的に介護をするとか、二人のためになにか我慢をするとか、そういうことをした覚えが一切ない。

「“障害者”って思われること自体が嫌なんじゃなくて、“かわいそうな障害者”って思われることが、ちょっと嫌なのかもしれないなって、いま思いました。母はめちゃくちゃ優しくて明るいし、弟もいいやつだし、二人に支えられて生きてる私は本当に幸せなので」
「僕が最初に奈美ちゃんに会いたいなって思ったのは、奈美ちゃんから“かわいそう”とか“不幸だ”っていう雰囲気を感じない理由を知りたかったから。それは多分、お母さんの影響だろうなって思ってたんだけど、やっぱりそうだったね」

東京駅で初めて幡野さんと会った時、母と弟も一緒にいた。
私がお手洗いに行っている間、幡野さんと母は、色んな話をしたそうだ。

母は、私を大切に育ててくれた。
障害のある弟の方が手もかかったはずなのに、いつだって私のことも一番に考えて、弟と平等に愛してくれた。
弟の面倒を見なさいなんて一度も言われたことはなかったし、姉だから我慢しなさいと言われたこともなかった。

でも、そうじゃなかったら、私は、弟を愛せなかったかもしれない。
母のおかげで、私は、かわいそうでも、不幸でもない、姉になれたのだ。

「結局、情報って二つの側面があるんだよね。世の中が知りたい情報と、自分が伝えたい情報と。その需要と供給がマッチするのが一番良いんだけど」
「まさに今がそれです。世の中は私の家族の感動ストーリーの方が読みたいかもしれないけど、私はもっとくだらない話も書きたいっていう」
「うん。でも、自分が思うことを書けば良いよ」
「私は“障害者の家族”ですけど、幡野さんも“がん患者”っていうイメージが、どうしてもついちゃいませんか?」
「そうだね。そういう僕を見たい人も、利用したい人もいるだろうけど、でも、そんなの気にせず楽しそうな方をやればいいと思う」

ストン、と胸に落ちた。
ケイクスの連載で、何千通というお悩み相談のメールに目を通している幡野さんは「相談する人って、実は自分の中に答えをもう持ってるんだよね。相談の文章の中から、答えを見つける作業をするだけ」と言った。

私も、この相談は、自分の中に答えをもう持っていたんだろう。
どう見られようと、私は、私の家族が大好きだ。
家族の話をするのは楽しい。
だから、自分が思うことを、書いていこう。

がんにならないことより、転んだあとにどうするか
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岸田奈美の「ほな幡野さんに聞いてみよか。」

岸田奈美

幡野広志さんの『なんで僕に聞くんだろう。』の発売を記念して、作家・岸田奈美さんが幡野さんに公開人生相談を行いました。岸田さんと幡野さんの対話を全4回でお届けします。(撮影:幡野広志)

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コメント

booksare4use https://t.co/Or5FOiBbh2 6ヶ月前 replyretweetfavorite

Kaoruyamauchi 転んだあとどう立ち直るか。この厄災をどう受け入れ、この状況下で何ができるか。社会の批判も必要だけれど、落ち着いてできる事をひとつずつ探っていこうと思います。 https://t.co/c2bQjcg5L1 6ヶ月前 replyretweetfavorite

r2tMehSUJHANDQG 何かが起こらない… https://t.co/hhGSyf0IzA 6ヶ月前 replyretweetfavorite

HiromiKishida 幡野さんと娘、奈美との対談、第3話めです。ぜひ読んでください😊✨ https://t.co/7ekaLBp7V3 6ヶ月前 replyretweetfavorite