服を脱ぐと、なの葉さんは慣れたようにこちらに向きなおる。体は薄く骨に沿って痩せていて、クリームベージュ色の肌のした、骨のありかがところどころはっきりわかる。意外と肩幅は広く、なだらかな胸の下にはゆるやかなカーブが続き、わずかに出っ張った腰骨が滑らかな肌を横に押し広げている。いつの間にかリップを落とした彼女の姿は、ブルーグレーのカラコンも相まってさながらアンドロイドの人形のようだった。体を見られることに、慣れている人の身のこなし方。
浴室に足を運ぶと、床はさらりと乾いていて暖かい。生活感の一切ない浴槽に、なの葉さんはまっすぐな足を沈める。わたしもお湯に身を浸して、小さく膝を抱える。なの葉さんの間に座って、後ろから抱きしめてもらうような形になる。そういえば、あのコミックエッセイにも客と風俗嬢が入浴するシーンがあったっけ。なの葉さんは後ろから、そっとわたしの肩に顎を乗せてくる。体重をかけるのではなくて、ここにいるよというように。
「えりかさん、いいなあ、お肌がスベスベで」
「褒めてくれるんだ、ありがとう」
「もしかしたらリップサービスかもって思われちゃうかもしれませんけど、本当に良いと思ったところを褒めてます」
「そうなんだ……」
「本当に人に向き合いたいなら、お世辞を言っている場合じゃありません。それは人のためじゃなくて、自分を良く思われたいためにしているだけだから」
「……人に求められていることを言うときもあるでしょ?」
なの葉さんは少しだけ黙る。「お客様が求めていることに、無理やり自分を合わせているのとは違うかな。何を求めているのかは一生懸命考えますけど、わたしができることは限定的ですし、限度設定はしてます。でも、その範囲内だったら頑張る。それが私の望みだしお仕事のポリシーでもあるから」
わたしのポリシーは、なんだろう。
体を洗ったあと、バスタオル一枚を身につけた彼女は、そっとすべやかに白い手を差し出す。「来て」
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