ひと通りの話を聞いた後、最初に口を開いたのは海斗先生だった。
「でも授業は受けなきゃいけないだろう? まだ先だけど受験だってあるし。あと単位ってものを取らないと、卒業出来ないよ」
ロロは首を振った。
「いや、俺、あっちで大学の勉強まで済ませてるんで……」
「え? そうなの?」
「はい。それにもしもこっちの大学に行きたい場合は、大検受けるって手もあるし。なので、やっぱ学校行く必要がないんですよ」
わたしは「待って」と思わず身を乗り出した。
「勉強はどうにかなっても、あなたのやりたかったことは、やっぱり学校に行かなきゃできないと思うんだ」
「………」
ロロは下を向いたまま何も言わない。
鈴とめぐも立ち上がった。
「そうだよ」
「うん」
「ずっと家にいるなんて勿体ないじゃん! 一度しかない十代なのに!」
「そうだよ! あと、うちの学校、春先には校庭一面に桜が咲いて、すごくきれいなの。あれは絶対に見たほうがいいと思うんだ」
その後もいくつかの説得の言葉をわたしたちは述べた。でもロロの表情は変わらなかった。
「もともと行く気はなかったんだ……。ただなんとなく、気まぐれで合唱部の門を叩こうとしただけで。だからわるいけど、もう帰ってくれないか。俺から話すことはもうないんで。それに——」
ロロが発した、それに——から続く言葉。わたしは突然、ボールを当てられてしまったときのような、そんなショックを受けた。
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