いろいろな人と共生する喜びを、
若い人に知ってほしい
藤野 障がい者に対してもそうですが、日本には、すごく見えない差別が多いと思いませんか。女性や外国人、中小企業に対しても差別があります。それはどうやって解決していけばいいのでしょうか。
渡邉 そうですね……それに関して僕はあまり参考になることが言えないですね。なぜなら、僕は、どんな人もすべて同じに見えるからです。例えば、僕はよくホームレスの方に声をかけられます。ホームレスの方に言わせると、「声をかけやすいオーラが出てる」そうです。それは、僕がホームレスもそうじゃない人も、同じに見えているからなのでしょう。彼らと一緒に飲みたい、話したい、といつも思っています。このあいだ、田町でホームレスの人に話しかけられ、しばらくしゃべったらすごく楽しかった。その方がおくってきた人生や考え方について聞き、いろいろなことを学びました。
藤野 なるほど。
渡邉 僕がそんなふうだからか、社内で差別はまったくないんです。うちの会社には、前にお話しした20大雇用であらゆる就労困難者の方がいて、外国人も非常に多く国から来ています。彼らと話していても、まったく違和感がありません。一人ひとりが自分の子どものように思えます。
藤野 20大雇用という考え方は、いつから持っていらっしゃるんですか?
渡邉 最初は「5大採用(ニート・フリーター、ワーキングプア〈時短労働者〉、FDM(注1)、シニア、引きこもり)」だったんです。それを2010年の2月に実現し、その後、10大雇用、20大雇用と方針を拡大して、2013年の今では20番目の項目の中に失語症と就労困難者を明記した20大雇用となりました。「採用」から「雇用」に変えたのは、ある方に「これからは応募者があって人を採るという採用よりも、雇用をつくっていくことが求められるのではないか」と助言をいただいたことによっています。
(注1:アイエスエフネットグループでは障がいのある方を「未来の夢を実現するメンバー」として、FDM〈FutureDream Member〉と呼称している)
藤野 海外ではハンディキャップを持った人たちが、たくさん街なかにいますよね。でも、日本では見かけることが少ない。なぜだろうと思っていたら、地域のボランティアをされている方に「日本では、障がい者が外に出られず、家にこもらざるを得ない。家族が障がい者だということを、周りに言えない風潮もある」と教えていただき、胸が痛くなりました。
渡邉 日本も外国も、障がい者が生まれてくる割合は一緒ですからね。
藤野 僕はこれが日本の大きな問題点であると同時に、大きな潜在能力でもあると思うんです。
渡邉 日本人は、障がい者を受け入れる素養が十分にありますよ。今までそういう環境が少なかっただけです。グループ内にいま約400人の何らかの障がいを抱えている方が働いていますが、一般の社員はみんな彼らを受け入れて、むしろ大好きになっています。そうなるために僕がまずやったのは、会社のなかで障がい者の位置づけを高めることです。僕は障がい者のみんなと一緒にごはんを食べることにしました。そこに、他の社員も呼ぶんです。僕が障がい者と盛り上がって楽しんでいる様子を見た社員は、この会社は社長が障がい者を大事にする会社なんだと実感できる。今日も、一緒にランチを食べてきたんですよ。それで、「渡邉社長、いつもありがとうございます」って、メッセージカードをもらったんです。本当にうれしいですよね。
藤野 これは宝物ですね!
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。