第27回】曲線と直線と中央と周縁の宇宙

昨年9月11日に始まった岡田育さんのエッセイ連載「ハジの多い人生」は今日で1周年。1周年によせた更新のテーマは、4年ごとに訪れるイベント・オリンピックについて。防災訓練や健康診断のように定期的にやってくるあのイベントが東京で行なわれるということに、はしゃいだり、反対したり、いろいろな方がいますが、はたして岡田さんの心中は……。

 2013年9月8日未明、私は朝まで飲んでいた。前夜には素敵な朗読劇を観て楽しいごはんを食べ、カラオケへ流れて心ゆくまで歌った。同世代が集まったせいか順番に好きな曲を選ぶと20世紀末のものばかりで、とくに1997年の曲が多かった。早朝の原宿竹下口はガスがたなびいたように薄墨色に寝ぼけており、くっきりと赤いランプを点した空車のタクシーはなかなか捕まらなかった。

 親しい人々と両手を大きく振って別れ、帰宅したのは4時50分で、早くに目覚めた家人が居間でテレビを観ていた。固唾を呑む音が響くほどの騒々しい静寂、どのチャンネルも、ものものしい雰囲気の臨時放送だ。地球の裏側にある都市と生中継が繋がって、2020年の夏に新しい■■が勃発するその場所が東京に決まったと、小声で高らかに宣言された。

 ■■が来れば、景気がよくなる。特需の恩恵に与ろうと、この世界規模の■■を待ち望み、招き寄せようと目論む人々は、夜を徹して大広場に集結し、ひしめき合って加持祈祷を捧げていた。「総理大臣が前線で戦っているときに、日本が寝静まっていてはいけない」と起床を呼びかけた者もいる。御百度参りのように暗闇の中を走り続ける人もいたらしい。万全の臨戦態勢を誇る我が国こそが、激戦を勝ち抜いて名誉ある主戦場となるに最もふさわしい……自国の勝利を願う祈りとも、他国の敗北を願う呪詛ともつかない、そんな念波がガスのようにたなびいていた。睡眠や静寂なんて、欲しがりません、勝つまでは。

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ハジの多い人生

岡田育

趣味に対する熱量の高いツイートと時事に対する冷静な視点でのツイートを自在に繰り出すWEB系文化系女子okadaicこと岡田育。 普通に生きているつもりなのに「普通じゃない」と言われ、食うに困らず生きているのに「不幸な女(ひと)」と言わ...もっと読む

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コメント

okadaic 続)もうずっとこの記事だけ無料公開にしておこうかな。まったく意見が変わらないよ……。私は、するりと、逃げますよ。 https://t.co/rSZUH0GKCY 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

sobersobersober |ハジの多い人生|岡田育 @okadaic https://t.co/VJYAhrWPrs 東京五輪。ぶっちゃけると、東京で開催されない方が良かった。が、日本経済のため、その他のため、それを口外したら非国民だ!といった雰囲気は当時あったよね 約3年前 replyretweetfavorite

okadaic 続)ザハハディドが悪者になるのは外国人で女性だからだ、なんて言う人もいたが、日本人男性デザイナーもこうなるし、やはり国全体が「◾︎◾︎」の狂気に支配されてるのだろう。昔コラムに書いたけど。→ https://t.co/rSZUH0Yluw 約3年前 replyretweetfavorite