こちらの写真、見覚えのある本がありませんか?
9月10日のとある書店の軒先のベストセラーランキングになります。見事、第4位に輝いているのは、cakesでもおなじみ、岡田斗司夫さんの人気連載「道徳の時間」が先日、書籍になったものなのです。
この3冊は、cakesでおなじみの人気連載である「統計学が最強の学問である」西内啓、「数学ガールの秘密ノート」結城浩、「道徳の時間」岡田斗司夫からそれぞれ書籍化されて、めでたく世に出ました。
2013年の9月11日、デジタルコンテンツ配信プラットフォーム cakes(ケイクス)はお陰様で無事に1周年を迎えました。
紙でもなく、電子書籍でもなく、WEBでの有料購読プラットフォームだからできること、コンテンツをもっと“自由”にすることがcakesでできたらいい。「cakesが見つめる『普通』の未来」でcakes代表加藤が語ったことが、少しずつではあるけれど、形になりつつあります。
今回は、なかでもcakes連載当初から話題を呼び、今や30万部を越えるベストセラーとなった『統計学が最強の学問である』の著者である西内啓さんに、cakesのこれからについてお話を伺いました。
西内さん、cakesを分析してみると、どんな未来が見えますか?
連載とマーケティングを同時に行う仕組み
加藤貞顕(以下、加藤) 『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)30万部突破おめでとうございます。cakesで連載していただいていた時からこれはすごい本になると思っていましたが、統計をテーマにした本では異例の売れ行きですよね。
西内啓(以下、西内) ありがとうございます。たしかに、日本で仕事として統計やデータ解析に関わっている人は30万人もいないでしょうね。
加藤 それがすごいですよね。ビッグデータという言葉が流行っていますが、今はデータ分析の仕事を専門にしていなくても、多くの人の仕事がインターネットにつながってきたということなんでしょうね。でもその数字のちゃんとした見方をわかってる人は少ない。そういう今の時代の問題意識に合致した本だったんだと思います。
西内 たしかに、結果的にそうだったんでしょうね。
加藤 で、もともとこの本はcakesとは関係なく、書籍化される予定だったんですよね。
西内 ええ。そうなんです。ダイヤモンド社の横田さんと僕がこの本をつくろうという話をしているときに、ちょうど退社してcakesを始めようとしていた加藤さんを紹介していただいたんです。
加藤 そうそう。僕はけっこう前から、西内さんのブログやツイッターを愛読していたんです。どうやら統計を専門にしているらしい、すごくおもしろいことを書くひとがいるなと。そのころcakesに読者の好みをリコメンドする機能をつけようと考えていたので、横田さんがお知り合いだと聞いてぜひ紹介してほしいとお願いしたんですよ。結局、西内さんにはリコメンドのアルゴリズムを設計していただいたり、その後も弊社の統計コンサルタンティングもずっとしていただいてますね。
西内 もうあれから1年半くらいたちましたね。僕と横田さんで新しい統計学の本を作ろうという話をしていて。
加藤 企画内容を聞いたら絶対におもしろくなると思ったので、ぜひcakesで連載していただきたいと相談をしたんでしたね。
西内 お引き受けしたのにはいくつか理由がありますが、ひとつは自分の連載のログを解析すれば、いいテストケースになると思っていました。それと単純に連載をしたことがなかったので、経験になるかなと。あとはやっぱり、「前パブ」ですね。ネットで連載をしたら、いきなり本を出すよりも宣伝になるのではないかと思いました。
加藤 そう、本以外の普通の商品であれば、発売前からパブリシティ(宣伝)をしますよね。だけど本では、発売前にマーケティングを行うことがほとんどないんですよね。ひとつひとつの商品のビジネス規模が小さいからなんですが、発売後に売れ始めたらあとからマーケティングをするんですよね。だから、cakesに連載することで、連載自体が宣伝になり、またターゲットになる読者の分析もできる。クリエイティブとマーケティングのプロセスを同時に行う——それがcakesでやりたかったことのひとつでした。
西内 はい。
加藤 ネットで連載してみて、書下ろしとの違いとかは感じましたか?
西内 やっぱり反響が目に見えるので、読者がなにを好むのかわかったのがよかったですね。実はもともと第6章の「統計家たちの仁義なき戦い」は最初の目次案にはなかったんです。
加藤 え、そうだったんですか。
西内 ええ。統計家の歴史の話に対して、ツイッターの読者かたの反応がよかったので、入れることにしました。僕自身はそこまで見ていないんですが、編集の横田さんがツイッターの反応をまとめて送ってきてくれたのがとても参考になりましたね。
加藤 まさに、cakesでの連載がマーケティングとして機能したってことですね。他に何か感じたことはありますか?
西内 これ、週2回掲載の連載だったんですが、なかなかたいへんでした。自分は原稿を書くのが早いほうだと思っていたんですが、週2回分の原稿を書いて、合間合間にcakesの解析の仕事をしていたので、連載中の3ヶ月間はほとんど毎日cakesのことを考えていましたね(笑)。
加藤 たしかにハードですね。ほんとうにおつかれさまでした。
西内 でも、すごく新鮮な体験でした。今までに僕が書いてきた本は、おおまかな目次案だけを作ってそれをもとに書いていたんです。だいたい一章単位で話の起伏をつけていたんですが、cakesでは一記事ごと掲載されるのでその中で起承転結をつけるように工夫しなければいけない。そのことが原稿の密度を濃くしてくれたと思います。
加藤 実はそれ、本を書くにあたってはすごくいいことなんですよね。僕も編集者としてたくさんの本を作っていますが、おもしろい本は再帰的な構造になっているんです。本全体の流れが起承転結になっているだけじゃなく、章ごとにも、節ごとにも、見出しごとにも、それぞれに起承転結ができているのがいい本なんです。
西内 連載だと、毎回、起承転結が要求されるので、いい目次案があれば、自然とそういう構造ができますよね。あとは、実際そうやって常に起承転結を意識して書いていると、自分の書く原稿のクオリティが上がっていくのが感じられて、そういう意味でもやりがいがありました。
統計コンサルタントとしてcakesをどう分析しているのか
加藤 では、cakesの統計コンサルタントとしての西内さんにお聞きしたいのですが、スタートから一年が経ったcakesを西内さんはどのように分析されていますか?
西内 そうですね。cakesがおもしろいのは直感を形にできるところです。こうしたら購読者が増えるんじゃないか、といった予想をして、それを叶える施策を行うと、新規入会者が増えるというのが、数値としてちゃんとわかるんです。
加藤 ウェブはそこがおもしろいですよね。紙の本をつくるときって、極端なことを言うと、カンで作っていたところがありました。後から届くアンケートはがきを見ることはできますが、つくる段階ではそれもないですし。でもウェブだと読者の行動がすべて可視化できます。だから、作り方がまったく変わるなと思いました。
西内 はい。例えば、会員だけどそれほどcakesの記事を読んでいないユーザーは、そのまま放っておくといずれ購読をやめてしまうというのが数字でわかりました。いかに記事を読んでもらうことが大事なのか、サイトを楽しんでもらうことが大事なのかがわかります。そして、そのための方策を考えることが非常におもしろいです。
加藤 本当に、すべて見えますよね。あと、西内さんにしていただいた分析で、編集者としておもしろかったのが、読者の好みのセグメント化の問題です。今、「アニメ」が好きな人ってあまりいなくて、その中の「イカ娘」や「ガンダム」が好きな人にはっきり分かれているんですよね。
西内 「ガンダム」の中でもさらに細分化されますね。cakesの読者もどの記事を読んでいるのか分析すると、人々の興味分野がすごく細かく分かれてきていることがわかります。例えば、ビジネス系の文章を読んでいる人でも、実用的なものが好きな人と、働き方を描いたビジネスエッセイみたいなものが好きな人はくっきり分かれました。
加藤 読者が何を読んでいるのかをクラスター分析で西内さんに分けていただくと、見事に読者のセグメントが分かれているのがわかるんですよね。そして、読者は必ずどこかのセグメントに所属しているというのが興味深かった。
西内 その細かく分けたクラスターの中から、2つか3つを選んで消費するのが読者の傾向のようですね。
加藤 この結果はかなり直感にも近かったですが、具体的な数字がでると確信を持って方策を考えられるのがcakesの強みになっています。
西内 そのとおりだと思います。
加藤 では、cakesは今後どのようにしていくべきだとお考えですか?
西内 プラットフォームとしては順調に成長してきていると思うので、今後もっとコンテンツの多様性が広がれば、分析もより効果が増すと思います。あたりまえですが、読者って読みたいものがあればちゃんとお金を払ってくれるものなんです。その読みたいものがなんなのかをデータから明らかにして、解決していければいいなと思ってます。
加藤 編集者として、データはすべてだとは思っていないのですが、ものづくりをする上で、強い味方ができたなと思っています。
西内 それでいいと思います。データは、あくまでも便利に使うためのものです。
加藤 ところで、『統計学が最強の学問である』がベストセラーになったという実績ができたおかげで、いろいろな出版社の方から相談を受けているんです。cakesが自分たちでつくるコンテンツだけでなく、今回のように出版社の編集者が本作りの過程でcakesを使ってもらえる機会を増やしていきたいと思っています。
西内 cakesに掲載されたものが本になる時に、分析したデータを参考に販売のマーケティングをするとか、そういうオフラインにも影響を及ぼすようなことができたらいいですね。
加藤 それはまさにcakesがやりたいことです! まだまだ一周年。cakesはこれからです。引き続きよろしくお願いいたします!
cakesでは冒頭で掲げた3冊以外にも、以下のように本の一部が読めるもの、インタビューが掲載されているものなど、さまざまな連載があります。
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是非この機会にチェックしてみてください。
きっと目を止めずにはいられないものが見つかるはずです。そして、気になったものはぜひ本をお手に取って御覧ください。