財をなすより仕事を残すのが一流の指導者
仕事で成果を出し、財を成すことには価値がある。だが、お金は使えば消えてしまうし、あの世まで持っていくことはできない。それよりも事業や仕事を残すことのほうに価値がある。
例えば、渋沢栄一は生涯に約500もの企業の設立に関わり、その中には誰もが知る企業として今日まで続いているものもある。残した事業が、国の人々の生活に貢献するものであったなら、財を残す以上に意義は大きいだろう。
そして、事業を残すよりもさらに尊いのは、人を残すことである。有能な人間を何人も育てることができたら、事業を残すことはもとより、後世にわたって、さらに有能な教え子が育つことにもつながるだろう。そうやって、脈々と自分の教えが受け継がれ、記憶されていくような人物になれたら、どれだけ素晴らしいことだろう。
京セラの創業者である稲盛和夫さんを師と仰ぐ人が多いのも、経営手腕を評価しているからだけでなく、「盛和塾」を開き、たくさんの人材も輩出しているからだという。一流の経営者は自分の会社が発展するだけではよしとしていない。広く世の中への貢献を考えて人を育てているものだ。
私が見てきた中では、ヤクルトの相馬和夫社長も立派な経営者だった。1990年、私がヤクルトの監督に就任して1年目はリーグ5位で終わった。後から聞いた話であるが、私を招聘した相馬社長は本社の役員たちから総スカンを食ったという。
3年目に優勝したときには「私は野村さんがチームを変えてくれると信じていた。ありがとう」と、私の手を握り、しばらく離さなかった。「この人のために」と思える人物であった。
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