1.矢印の使い方
前回は、ビジネスモデル図解で一番重要な、主体を考えるときのコツを説明した。しかし、ビジネスモデル図解は主体だけではなく、矢印と補足も合わせて使うことによって完成する。
主体を並べたあとに重要となるのは、矢印と補足をどのように使うかということだ。今回はそれについて解説していきたい。
(1)ビジネスモデル図解における矢印とはなにか
ビジネスモデル図解では、ある主体同士の「関係性」を表現するために、矢印を用いる。なぜ、関係性を重視するのか。それは、ビジネスの仕組みの基本は、「異なる主体の関係性を作ること」だからだ。
これまで見てきたビジネスモデル図解はすべて、そのビジネスにおける重要な主体がどのように価値を交換しあうことで事業を成立させているのかを説明している。
重要な主体の選び方と配置の仕方はこれまでの回で説明してきたとおりだが、それぞれの主体がどうしてそのビジネスモデルで重要なのかを説明するにあたって活躍するのが矢印だ。
(2)矢印を使う際のコツ
矢印を使う際のコツは、大きく3つある。
①価値の交換の流れが循環しているように表現する
②それぞれの主体の役割を明確に表現する
③それぞれの主体のインセンティブをわかりやすく表現する
順番に説明していく。
①価値の交換の流れが循環しているように表現する
ビジネスは、利用者に持続的に価値を提供する必要がある。持続的であるためには、その価値を提供する仕組みが循環し、継続的に価値を提供できる仕組みである必要がある。対象事業を説明する際には、その全体の価値の循環がどのように構築され、その流れがどこに帰結するのか。それを見た人が読み解けるような図解を意識しよう。
たとえば「Spacious」というサービスがある(編集部註:Spaciousは2019年8月27日にWeWorkにより買収されました)。Spaciousは、開店時間前のレストランをコワーキングスペースとして提供するサービス。
コワーキングスペース自体はWeWorkをはじめ多くの企業が手がけているけれど、その多くが自前で場所を用意している。しかも最近は、どこもリノベーションしておしゃれな空間を演出することで差別化を図っているため、コストは上がる一方。
そのような市場環境の中、Spaciousのサービスは、レストランが開店する前の空き時間を活用することで、自前で空間を用意しなくてもコワーキングスペースを運営できるようにしている。
ここでお金の流れに注目する。ユーザーは毎月利用料をアプリ上で支払う。そして、それがサービスの売上となる。そのお金は、コワーキングスペースの運営だけでなく、空間を提供してくれるレストランにも毎月利用料として支払われる。
このように、お金が循環していることがわかるよう、流れを意識して説明することが大切だ。
②それぞれの主体の役割を明確に表現する
ビジネスモデル図解は、主体同士の関係性による価値の交換の流れを説明するものである。つまり、その流れが読み取れるような表現になっている必要がある。
図解の対象となる事業が価値を生み出すために、どこから経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を取得して、それをどのように事業価値に変換して利用者に提供しているかが、主体と矢印を見てわかるような図解となることが望ましい。
図解を見ても、主体同士が一体どのような役割を果たしているのか、それぞれの主体がなぜ存在しているのかが明確でないと、読み手としては疑問が残る図解になってしまう。その主体を選んだ理由に基づいて、役割を明確に際立たせた図解を作成しよう。
③それぞれの主体のインセンティブをわかりやすく表現する
ビジネスモデル図解は、その事業の経済合理性を説明するものである。主体同士はそれぞれにその事業に関わることで利益があるから価値を提供しているはず。それぞれの主体がなぜその事業に関わっているのか、どのように経済合理性を確保しているのかを説明することで、その事業がなぜ持続的に価値を提供できているのかが伝わるだろう。
たとえば、ビジネスモデルを成り立たせるためにある主体からお金や技術を提供する矢印があれば、その主体にとってインセンティブとなる矢印が必ずあるはずだ。
ここでいう「経済合理性」というのは、単にお金だけではない。ある情報を得ることができたり、その事業の上で自社サービスを提供することで間接的に利益を得る(広告など)ようなものもありえる。
(3)矢印を活用する際の注意
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