「ナオキ、この子何点?」
ナオキと呼ばれた若手の取り巻きの一人は戸惑っている。「あ、えっと僕は結構クールなお姉さん好きですよ」
「ばーか、ちゃんと点つけろよ」顔のどこでもない上っ面をジロジロと見回す。「うーん45点!」「くー!横川さんキビシー」「さすが!」「面食いっすねー」「ま、確かに彼女さんと比べちゃねー」どうやら彼ら特有の〝女性での遊び方〟があるらしい。心のこもった会話もなく彼ら自身の結束を高め、面白がり、そして支配欲のゲームを仕掛ける。女性には喋らせない、採点して否定する。黙って賛同しないホステスは軽蔑し、客の権限を利用して退席させる。それは彼ら固有のやり方だったが、この店に来る男性客の悪意を煮詰めたようなところもあった。横川さんは付けられたホステスにダメ出しをし、貶しつつもドレスから覗く素肌を触ることを忘れない。見慣れた獲物のように遠慮なく視線を滑らせる。
救いの手を求めて、他のホステスの様子を窺うが誰もが事を大きくさせることを恐れて、声をあげない。いつもはやんわり水を差したり、巧みに話題を変えてしまったりするベテランのお姉さんたちは沈黙という手段をとってそこにいる。れいかママは、いつものようにイベントに出てしまっていて今日はいない。そんな馬鹿な、と思ってこの席の管理と責任を担っているはずの亜矢さんを見ると、彼女はどこでもない空中を見つめたままグラスを傾けている。セクハラも暴虐も、その目には入っていない。仲間や年下の子たちを庇ったら、自分の株を下げてしまう、〝よくできた女性〟でいられなくなってしまうから。ようやく、わたしは理解した。わたしたちは供物であり、犠牲でしかないのだ。ホステスの高い給料は、心のこもった会話やお酒の同伴、ちょっとした期待や夢を売ることだけで成立しているわけじゃない。ときに捧げ物として、お客様の要望を無条件で満たす係として暴力を受け入れる。自分の意思を売り払った、その対価でもあったんだ。