会社員もホステスも同じだった#8

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する橘みつさん。銀座の高級クラブのホステスとして働く中でみつさんは会社員時代と共通した、ある事に気が付くのでした。

いつ頃からだったかホステスは夜の蝶なんて呼ばれるようになったらしいけれど、蝶よりは魚の方が近いんじゃないかな。フロアは巨大な水槽みたいなものだ。それぞれのボックスに客と指名のホステスがいて、ボックスごとに異なる空間になっている。共存できない水域の水生生物たちがこの椅子とテーブルごとに棲んでいる。違う席につくたびに水の深さも水質も流れも、異なる世界が広がっている。同じ客でも付いているホステスやその日の状況によって、空気が異なるのだ。

一本吸い終わった灰皿を替え、おしぼりの形を整え、グラスに付いた水滴を拭ってテーブルを片付けながら、わたしはその設定と状況を一瞬で読む。固定の常連客を持っているわけじゃなくてヘルプで付く立場だから、すでに客とお姉さんが作り上げているやりとりに交ざって乗るしかない。自然に介入し、この場に一番必要とされている役を引き受ける。時には切り込み、ただのお飾りになったり、道化の役になったり、当て馬になったりする。その場に交じってただニコニコしていた方がいいこともあるし、自分から積極的に話さないと場が持たないようなときもある。ヘルプなんて言うけれど、枯れ木も山の賑わいになるか、それともお姉さんたちにとって本当の意味での「ヘルプ」になれるか。すべては自分の一挙一動にかかっている。

指名客のいないホステスはテーブルに呼ばれない限り、待機スペースに座って、お姉さんたちと客が談笑している様をただ見ているしかない。それで給料が出ればまだいいが、待機しているだけのホステスはとっとと早上がりさせられてしまう。だからヘルプとして呼ばれること、すでに席に付いているお姉さんに必要とされることは何より大切。彼女たちに使えないと思われると、団体客が来ない限りテーブルに付けてもらえなくなってしまう。ヘルプにだって順列がある。実際、ちょっとだけ配慮が足らなくて遠ざけられてしまったらしきお姉さんも、入店して日の浅いわたしでもすでに何人か思い当たる。

客の正義、理想、善と悪、そして「あるべき女の子」。わたしの仕事は、それに自然と同意し埋め合わせることだ。最近の男性は草食化が進んでいていかんね、そうですよね。もっと俺たちの時代は働いてこそなんぼだったよなあ、もちろんですとも。わたしたちは選ばれし正しい女性の代表者であり、物事の分別がつく貴重な存在。そんなわたしたちの価値を見出し、評価できる客は当然、すばらしい人間なのだ。お姉さんたちに寄り添われ持ち上げられた客たちは、豪勢な椅子の上で顔を緩ませくつろぐ。特にこの店に来る客は会社の重役や役員、社長クラスがほとんどだから、日ごろからこういった〝歓待〟を受けていることが多い。自分の無礼には鈍感だが、否定されることには敏感で、特に女性に対してはわずかでも受け入れられないところがあるとすぐに機嫌を損ねてしまう。水の下に不機嫌という大魚の気配を捉えたら、大急ぎでなだめてフォロー。どれほど不条理で非のないことでも、自分たちが悪いと折れてあげる必要がある。特に下っ端のホステスほどその役割は回って来る。ここにいて必要とされるには、それしかないのだ。まあでも、これってわたしが会社員時代にしていたことと大して変わりなかったりする。会社員という安定した地位と立場は失ったくせに、結局同じことで稼いでるなんて、皮肉だった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話

橘みつ

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する著者は、なぜ、レズ風俗で働くのでしょうか? お客さんの「人生のきっかけ」を共に探したいと願い、これまで200人以上に向き合ってきた彼女が、どんな人生をおくり、い...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

PagannPoetry 最新話更新されました! 〝自分の無礼には鈍感だが、否定されることには敏感で、特に女性に対してはわずかでも受け入れられないところがあるとすぐに機嫌を損ねてしまう〟 https://t.co/d4p6r6kbcF 6ヶ月前 replyretweetfavorite