​漢字を間違えていても「許してください」で万事OK!?

書籍『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』の出版を記念して、千葉リョウコさんと山本さほさんの対談を3回にわたってお届けします。どうしても漢字が覚えられなかった学生時代、テストをカンニングでやりすごし、黒板を写すのがすごく苦手。今もキーボードはひらがな入力、親の名前や住所が漢字で書けない……そんな山本さほさんが、子どもの将来を憂いている保護者に伝えたいのは「心配しすぎないでいい」ということ。

第3回 漢字を間違えていても「許してください」で万事OK!?

—SNSでは誤字を指摘してまわる誤字ポリスが大量発生!?

千葉:山本さんはwebで個人的に発表されていた『岡崎に捧ぐ』が、そのまま商業連載になったんですよね?

山本:そうです。最初はnoteで公開していたんですけど、当然そのときはひとりでやっていて編集さんがいたわけじゃないし、写植の打ち方もわからなくてセリフも全部手書きでやっていたから、とにかく誤字の量が半端なかったです。そしたら…!

千葉:ああ! 誤字を指摘されるんですね!

山本:そう!! そうなんです!! めちゃくちゃ誤字を指摘されて……誤字ポリスすごい多いですよね。

 1話アップすると、何十件と誤字の指摘がくるんですよ。私も指摘されるのが嫌なので、何度も見直して確認して、よし誤字ないな…と思ってアップしてるのに……線が一本多いです…とか。こんなに字を間違えていて、見直ししていても間違えていることに気づかないんだってわかって、さすがにやばいなって思いましたね。

千葉:それでまた落ち込むんですよね。私も誤字はよくやっちゃいますよ。たとえばこの本のなかでは手書き文字の「えんぴつ」が「えんぱつ」になってました(笑)。

 事前に編集さんのチェックが入るから、印刷する前に直せていますが…。そういう意味では、山本さんはプロの漫画家が向いてたってことですよ。誤字のチェックとか写植とかは分業で、編集さんに任せられるから。

山本:なるほど! そういう考え方もありますね!

千葉:私はイラストが苦手なんです。編集さんにも「漫画だといい表情描けてるのに、表紙になるとどうして描けないの?」とかけっこうキツイこと言われたりもして…。だから最近では表紙の絵を描く前にデザイナーさんと打ち合わせをして、こういうポーズでこういう表情で…って指定してもらって、その通りに描くようにしています。センスがないところは得意な人に補ってもらおうと思って。でもそれがプロの仕事というか。分業できることは分業していけばいいと思うんです。

山本:私はファミ通でやっている連載(無慈悲な8bit)の文字が全部手書きなのでそれがしんどいです。

(山本さほ『無慈悲な8bit』4巻より)

千葉:けっこう文字量多いのに、写植なしなのはどうしてですか?

山本:私は自分の字が好きじゃないから写植してほしいって言ったんですけど、編集さんはこの字がいいんだって言うんですよ。

千葉:味のあるいい字ですよね、それはわかります!

山本:そう~そう言ってくださるんですけど、頑張って調べながら書いても写し間違えて何回も直しがはいって、単行本にするときもさらに直して……しんどいです。

 実を言うと、ふきだしの中だけじゃなくて、編集さんの判断で写植にしてもらえない部分あるじゃないですか。こういう看板とかうしろの字も全部本当は写植してほしいぐらい自分の字が嫌いなんです。

千葉:ここも全部ですか!?

山本:無理なのはわかってるんですけど、そのぐらい好きじゃないんですよー!!

 千葉さんの字はかわいいですよね。学校の先生とやりとりするときは字を変えてますか? 小学生のとき、「お母さんの字」があるなって思ってたんですよ。私たちの親以上の世代かな? 明朝体っぽい、きちんとした大人の字。大人になったらあれが書けるようになると思ってました。

千葉:いえいえ、漫画のときと同じ、漫画字で先生とやりとりしてます(笑)。

—スマホがあれば大丈夫!「豊臣秀吉」が書けなくてもいい!

山本:自分の字が嫌いだとか、書き写し間違えるのが辛いとかはありますが、さっきも言ったように、もし人生をやり直せるとして、この障害がない人生と今の人生だと、今のほうを選ぶと思います。

千葉:もし漢字が難なく書けていたら美大にも行けていたかもしれませんが……。

山本:それでも、書けてないから漫画家になれたかもしれないので、このほうがよかったなと思いますね

千葉:そんな風に、自分の今の人生がいいって思えるような人生を、子どもたちにも歩んでもらえたらいいなって思います。親としてはカンニングしたっていいよとは言えないですけど(笑)、そのぐらいのとらえ方で前向きに楽観的に…というのはすごくいいなと思います! 山本さんは、漫画家にもなるべくしてなったという気がします。

 私自身は当事者じゃないので、この子はこの先どうなるんだろうと心配が先に立ってしまいますけど、山本さんはうちの娘とかぶっているところが多々あって、なんだか安心しました。約束を忘れたり、メールの返信を間違えたりしても、漫画という仕事をきちんとしていればやっていける。部屋が汚くても今は誰にも怒られない…んですよね?

山本:怒られませんね!(笑)

千葉:ナツも私から離れてひとり暮らしするようになったら、うるさいことも言われず、のびのび楽しく暮らせるのかもしれないな~。

山本:この本を買う熱心なお母さんたちが心配してるのって、「うちの子は字が書けなくて、将来本当に大丈夫なのかな」っていうことだと思うんですよ。

 私は、豊臣秀吉が書けなくても、なんとかなってますよ!!


 昔はもっと大変だったと思うんですけど、今はスマホがあるし、スマホ持ち込みのできない百貨店でも小さい電子辞書使わせてもらえたし、それさえ使えれば店長業務もできたぐらいなので、大人になったら困ることはそんなに多くないと思います。

 芸術面のほうにもし進みたいとなったら、漫画家とかクリエイターには同じく字が苦手なひとたくさんいるので、安心して…って言うと言いすぎかもしれませんが、心配しすぎなくていいと思います。

 ちなみに、私の携帯のメモ帳はこんな感じになってます。

山本さほさんの携帯電話のメモ帳の一部

山本:左手で携帯で調べながら文字を書くので、調べた字の履歴が残ってるんですよね。

 ほうふくぜっとう…てんかい…しあわせ…とか調べて、変換の漢字を見ながら書いています。こうやって調べて書けば書けるので……なんか……心配されてるお母さんがたを安心させたいんですけど、うまい言葉が出てこないな……なんとかなりますよ~! ナツちゃんもきっと大丈夫!

千葉:ありがとうございます! 山本さんの性格がとても前向きっていうのも大きいでしょうけど、読み書きが必要とされる仕事をされていたこともある山本さんがそう言っていたよ、というのは当事者にとって大きな力になるんじゃないかと思います

山本:フユくんは、ナツちゃんのように芸術面に秀でていたりはしないんですか?

千葉:フユはまったくなかったですね。今、調理の専門学校に行ってますけど、それもとくに料理が得意だとか好きだったというわけじゃなくて、自分で調理したら好きなだけウインナーが食べられるってことに気づいたのがきっかけでしたね。私が調理すると、ひとり2本しか食べられないのに、自分で調理したらウインナー一袋全部食べられるっていう(笑)。それからいろいろ料理をするようになって、嫌いじゃない、苦手じゃないって気づいたみたいですね。

山本:食欲きっかけ! ある意味、料理の才能があったといえますね(笑)

千葉:字が書けないからあれもできない、これもできない…じゃなくて、みんなそれぞれできることはたくさんあると思うんですよね。字が書けてもできないことがあるのと同じように。

—漢字を間違えてもどうか許してください。

(山本さほ「きょうも厄日です」より)

千葉:山本さんが漫画の最後に描いていた「字が間違ってても許してください!」がすごくいいですよね。書けなくても「許してね!」ってそれでいいんだな、と。

山本:字が間違ってても許してください!!で許してもらえる場面って、けっこう多いと思いますよ。

千葉:「心配しすぎないでいい」というのは、親の立場ではなかなか思えないことなので、漢字が書けなくていろいろ苦労もされてきた山本さんからそう言っていただけて気持ちが軽くなりました。本日は、ありがとうございました!

—文字をたくさん書く連載がしんどいと言いつつも、終始明るく話してくれた山本さん。フユくんともナツちゃんとも違う障害のとらえ方、向き合い方には、苦手な書字をカバーする工夫をしながら自立している社会人ならではの力強さがありました。

山本さほさんの最新刊かつ、すべての文字を写植なしで左手に携帯を持ちつつ一生懸命書き写しているという『無慈悲な8bit』4巻、好評発売中!


「読み書きできるのはあたり前」ではない子どもたちの将来を考える一冊

この連載について

初回を読む
山本さほ×千葉リョウコ対談『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』

千葉リョウコ

2月29日に発売された書籍『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』の出版を記念して、漫画を担当された千葉リョウコさんと、文春オンラインで連載中のエッセイ漫画「きょうも厄日です」で漢字が書けないことを公表した漫画家の山本さほさんの対...もっと読む

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