第2話】インターンは雇い主をたしなめる

「僕はロマンスは嫌いなもので」ーそう突っぱねたにも関わらず、上司からの命令でエロティカ作家・ノーラの編集担当者となってしまったザック。気がのらないままノーラの家を訪れます。そして姿を現した彼女は噂で聞いていた人物像とは程遠い魅惑的な姿をしていました。大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社の刺激的な新レーベル”エロティカ”より、9月15日に発売された小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』の一部をお届けします。

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 ザックはたまに仕事が嫌いになる。編集作業そのものは好きだ。小説を立派に見せかけたり、実際に立派にしたり。だが駆け引きは嫌いだ。予算が足りなかったり、ベストセラーの売文屋のために、異彩を放つ中堅クラスの作家を下ろして場所を空けなければならなかったり。そしていまは、出版界の実力者に“自分には文芸小説の最高の編集者がふさわしい”と思いこませることに成功した、頭のいかれたポルノ作家に会うため、コネチカットくんだりまでやってきた。今日は仕事のほうがザックを嫌っているのを感じる。

 ザックは、平凡な郊外に立つ風情のあるチューダー様式の二階建てコテージの前に、J・Pの車を停めた。住所と自分の位置を確認し、家を見つめる。ノーラ・サザリン—著作が翻訳されるのと同じくらいの頻度で発禁にされる、悪名高いエロティカ作家が、こんなおばあちゃんが好みそうな家に住んでいる?
重いため息をつき、大股で玄関の前に進むと、呼び鈴を鳴らした。ほどなく、足音が近づいてくるのが聞こえた。しっかりした男の足音だ。ひょっとしたらノーラ・サザリンというのは、とある中年肥満男のペンネームなのかもしれない。
 ドアを開けたのは男だった。いや男ではない—少年だ。チェックのパジャマのズボンと、麻紐に小さな銀の十字架がぶら下がったネックレスだけを身につけ、眠そうな笑みを浮かべてザックを見つめている。

「十九ですよ」

 少年が言った。アメリカ南部のアクセントだ。

「十六じゃなくて。ノーラがサブカル向けに僕が十六だって言ってるだけです」

「サブカル向け?」

 ザックは十代のインターンの噂が真実だったことに呆然とした。
 少年は日焼けしてそばかすのできた肩をすくめた。

「ノーラの言葉です。僕はウェスリー・レイリー。ウェスって呼んでください」

「ザカリー・イーストンだ。君の……雇い主?……に会いに来たんだが」

 ウェスリーという名の少年は笑い、若者らしい物憂げな様子で、ひと筋の濃いブロンドの髪を茶色の目から払いのけた。

「僕の雇い主にはすぐに会えますよ」

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セイレーンの涙—見えない愛につながれて

ティファニー・ライス

大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社から、刺激的な新レーベル“エロティカ”が初めて刊行されました。これを記念してcakesでも、“エロティカ”から9月15日に発売された小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』の一部...もっと読む

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shougapan 第2話公開されてました。>【第2話】インターンは雇い主をたしなめる| 約5年前 replyretweetfavorite