とにかく欲求不満である!

「モテる文体とはなにか?」を徹底的に分析する連載です。今回は宮藤官九郎さんの「日本国民を“サブカル”にした脚本」について解説します。書評ライター・三宅香帆さんの著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』から特別収録。

宮藤官九郎の激化力

言葉の意味はよくわからないけど、とにかくすごい勢いだ。


国民的ブームともなった連続テレビ小説『あまちゃん』。あなたは観てましたか? 
私は大好きすぎて、いまだに録画を消せません。

『あまちゃん』の魅力は語り尽くせませんが、そのうちの一つは「じぇじぇじぇ」「ずぶん」など、脚本家の宮藤官九郎さんによる「言葉選び」のセンスにあったと思います。

特に、私はのんさん(当時は能年玲奈さん)演じる主人公アキちゃんの台詞の虜でした。
アキちゃん最高すぎた。ただここでは『あまちゃん』の物語としてではなく、言葉としての魅力について語らせてください。


これは、家族経営の芸能事務所で、アイドルとして再スタートを切ろうとする主人公のアキと、憧れの元アイドルであり師匠でもある鈴鹿(薬師丸ひろ子)が話す場面です。

芸能活動にあれこれ口出しをするアキの母・春について苦言を呈する鈴鹿に対し、いやそんなことはどうでもいいです恋愛したいんですができないんです、とまくしたてるアキ。
この一連の流れにおける、決め台詞はどこかといえば、これでしょう。






「もう盛りのついた、猫背のメスの猿なんです!」


いや、こんな国民の心を揺るがせた名台詞に関して、私みたいな一介の小娘が偉そうに解説するのもどうかと思いますが、言わせてください。
ここでアキちゃんは、ドラマに勢いをつけたんです。

ドラマは勢いが命です。
そしてドラマに勢いを出すには、もちろん役者さんの演技力も大事ですが、台詞も重要な要素の一つであるはずです。
脚本に書かれたものが「勢いのある言葉」だからこそ、役者さんはその勢いに乗った演技を見せてくれるからです。
「欲求不満なんです!」と叫んでから、アキちゃんはいかにして勢いよく飛び出すのか。
決め台詞にいたるまでの言葉を見てみましょう。


①恋愛禁止のGMT(アイドルグループ)
 →欲求不満 小

②辞めて意中の人に告白。両思いだった。

③が、ようやく恋愛できると思ったら、予備校のCMが決まってしまって、また1年間、恋愛禁止
 →欲求不満 大

④1年なんて無理です! 
 →叫び

⑤もう走り出した恋の汽車は止まりゃしねえです!
 →暴走!



そして暴走を決定づける決め台詞。

ここで恋愛的欲求不満の状態を示す慣用表現として、「盛りのついた猫」とか「メス猿」という言葉を選ぶのは妥当でしょう。

しかし、クドカンこと天才脚本家である宮藤官九郎さんは、アキちゃんの暴走状態をあらわすために、この慣用表現を暴走機関車の荷台にてんこ盛りにするのです。

「とにかく欲求不満である!」と関連する言葉として挙げられる、
・盛りのついた
・猫
・メス
・猿
・猫背(これはただのアキの特徴)を全部盛り!

〈もう盛りのついた、猫背のメスの猿なんです!〉

という言葉の塊にして、勢いよく発車!

こんなふうに慣用表現を過剰に盛りまくることで、「普通じゃおさまらないとんでもない勢い」を出すことに成功しています。

これは、アキちゃん何おかしなことを言ってるの? (笑)、という視聴者の笑いを期待するだけではなく、ドラマとして、アキちゃんの今後に勢いをつけるために、この台詞が生み出された…というのが私の考えです。

劇中のアキちゃんは計算できない天然美少女ですが、宮藤官九郎さんは計算し尽くしの策士。
マニア受けする笑いが散りばめられたこのドラマが、広い層に受け入れられたのも当然の結果ですよ! 
ほんとに!

とにかく気持ちの勢いを文章で伝えたい時、思いのたけをストレートにぶつけてみて、それでも表現し尽くせなかったら、慣用表現を盛りまくってみたら、そこから新しい表現が生まれるかもしれません。


今回のポイント気持ちがあふれると、抑えきれない。


※次回「よしもとばななの意味深力」は2020年8月9日(日曜日)更新予定です。ひきつづきお楽しみください!

言葉の発信力をあげたい人へ。

この連載について

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文芸オタク女子の バズる文章教室

三宅香帆

こんな書き方もありだったのか! 文芸オタク女子が暴露する、「モテる文章の秘密」がいっぱい。文章を書くという行為が、今よりもっと面白くなるはずです。

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