松井玲奈力

「モテる文体とはなにか?」を徹底的に分析する連載です。今回は松井玲奈さんの「世の中の空気を完全に読み切った文章」について解説します。書評ライター・三宅香帆さんの著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』から特別収録。

松井玲奈の国民力

(わたしも)(ぼくも)(じぶんも)わかる! イメージできる!


仕事の終わり。新入社員数名。上司との飲みの席。

「きみはトップバッター的な役割でよろしく」「いまは大振りせずに、バットを短くもっていこう」「後ろは万全だから、思い切って投げてくれ」なんていう話が出たとします。

野球が好きな人には分かりやすいたとえかもしれない。でもこれって、野球をまったく知らない私のような人間には、かえってわかりづらいものになっています。トップバッターとは一体何をがんばるのか。万全な後ろとはいったいどんな後ろなのか? ただただ困惑するばかり。

たとえ話というものは、読み手(聞き手)によりわかりやすく伝えるための表現だから、話しているほうは良かれと思っても、聞いているほうがちんぷんかんぷんじゃ、する意味がない。

(なんだよ個人的な愚痴かよ)(そもそも私はそんなマニアックなたとえ話なんかしないし)とそっぽを向いた方。ちょっと、まあ、聞いてください。

趣味にかたよった話に限らず、無自覚に「読み手を選ぶ表現」をしてしまう人って、けっこういるんです。

たとえば「地下鉄」。そう書いたら、地下鉄がある県かない県かによって、受け取り方が違うでしょう。

他にもたとえば「イヤイヤ期」と書いたらどうでしょう? 子育て経験がある人、ない人で伝わり方が変わる。

見た目が奇抜な人をつかまえて、「京大生の変人自慢か!」と言ったとしたら? 笑えるのは京大生だけかも。

自分にとっての常識は、他人にとっての常識だとは限らない。文章を書くときはその点によく気をつけていないと、知らず知らずのうちに壁を作ってしまうもの。

ところがそういった“壁”をまっっっっったく感じさせないのが、元アイドル・現女優・現作家の松井玲奈さんのブログです。

アイドル、つまり「老若男女だれからも愛されることをめざすプロ」を長く続けていたこともあってか、松井さんの文章は、ほんと〜に、だれが読んでも「自分に向けて、書いてくれている!」と安心できる、気遣いにあふれているのです。


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文芸オタク女子の バズる文章教室

三宅香帆

こんな書き方もありだったのか! 文芸オタク女子が暴露する、「モテる文章の秘密」がいっぱい。文章を書くという行為が、今よりもっと面白くなるはずです。

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コメント

Satoko43287483 前も思ったのですが、残念ながら東京生まれ東京育ちにとっては「吉本新喜劇」ってそんなに身近で「誰でもわかるたとえ」ではない。 3ヶ月前 replyretweetfavorite

tuketakuFP 受け手によって言葉を選べる人でありたいなぁ 3ヶ月前 replyretweetfavorite