さりげない言葉も大きな励みになる
今の教育者は「言葉」の重要性をどれだけ自覚しているだろうか。
指導者の言葉に力があれば、教え子は自ら動こうとする。たった一つの言葉で人生が変わるという体験も、教育の場では決して珍しいことではない。だから、指導者は言葉の力を強く認識することが大切である。
私自身も選手時代に監督からかけられた、さりげない言葉が大きな励みとなった経験をしている。
あれはプロ3年目のシーズンが始まろうとする直前、ハワイキャンプに帯同したときのことである。前年までファーム暮らしに甘んじていた私が、なぜ一軍のキャンプに参加できたのか。それは、ブルペンキャッチャーが必要になり、たまたま私が選ばれたからだった。ブルペンキャッチャーを務めるだけでなく、グラウンドの整備や用具の手入れなどもしなければならず、要するに雑用係として呼ばれたのだ。
だが、キャンプにいれば、鶴岡監督にプレーを見てもらえるかもしれない。だから、これは願ってもない展開だった。相当な意気込みで日本を出国したのを覚えている。
幸運なことに、地元チームとのオープン戦が始まると、大きなチャンスが巡ってきた。当時、正捕手だった松井淳さんが故障で戦列を離れた上に、二番手キャッチャーがハワイでの連日の夜遊びを叱責され、出場機会を奪われるという事態が起こったのだ。
安月給で遊びに行くお金もなく、ハワイの宿舎でも日本と同じようにただ素振りを繰り返すしかなかった私に、ついに出番が回ってきたのだ。
その試合でキャッチャーとしてプレーし、打席でもヒットを連発した私は、その後も先発として出場を続け、思う存分に自己アピールできた。結果として、そのまま一軍に上がることが許されたのである。
しかも、帰国後、さらに驚かされる出来事があった。新聞に掲載された鶴岡監督のインタビュー記事にはこう書かれていたのだ。
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