マイノリティをからかったり怖がったりすることで「男らしさ」が証明される時代は終わった

いま、「おっさん」はどこへ行くべきなのか? 時代に合わせて生まれつつある「あたらしいおっさん=ニュー・ダッド」たちの姿を見つめながら、これからの「父性」「男性性」を軽やかに考えるエッセイ連載第11回。マイノリティを支援するために、元ラグビー選手が取った一風変わった方法とは? 「ニュー・体育会系」なダッドたちに注目です。

イラスト:澁谷玲子

「ゲイに襲われる」と言う男性が本当に恐れているもの

ヘテロの男性にとってゲイは怖いのだろうか? ついこの間もゲイを性欲モンスター扱いする映画が問題になったけれど、わかりやすい、そして(たいていは)悪気のないホモフォビアに「ゲイに襲われる」ことを冗談にするものがある。

たとえばクラスに仲のいい男子ふたりがいたとして、「あいつらホモじゃねえの」とからかったり、「いっしょにいると襲われるぞ」みたいなネタにしたり。酷い場合では大人であっても、周りにゲイがいるとわかったら「オレのことは襲わないでくれ」とわざわざ発言するような人間もいる。襲ってくるゲイから逃げるゲームなんてものも普通にあるし。

いちゲイからすると、四六時中誰かを襲おうなどと考えているはずもないし、もし実際に「襲う」ようなことがあればそれはゲイ・ヘテロ関係なく完全な性犯罪なわけで、笑って済まされるものではない。だからそうしたジョークに出くわすたび「またか」とげんなりするばかりだ。

ただ一方で、(旧来的な)「男らしさ」の証明には「同性愛者でないこと」も含まれるため、ゲイを過剰にからかうヘテロ男性は「純然なる男」から脱落するのを怯えているのだろうな、と気の毒に思いもする。それは「男であれ」という世のなかからのプレッシャーがキツいことの裏返しでもあるからだ。だからその恐怖を内面化して、「ゲイを怖がる」という安直な解決を知らずのうちに選んでしまうのだろう。

しかし、世のなかにはいろんなひとがいる。たとえば、ゲイのために脱ぐ元ラグビー選手が。

ゲイの味方をする体育会系の男

ベン・コーエンはイングランドで活躍したラグビーのスター選手で、あるとき熱心なゲイのファンから「あなたは僕のヒーローです。僕みたいなひとはすごくたくさんいるんですよ」というメッセージを受け取って、自分に大勢のゲイのファンがいることを知った。実際、そのファンが参加しているフェイスブックのコミュニティを覗いてみると3万人以上のメンバーがいて、その全員が男性だったという。ゲイの好みのタイプも多様だけれど、逞しい体つきのラグビー選手は王道中の王道。その上、チャーミングな顔立ちのコーエンがゲイの間で人気になるのはよくわかる。

ゲイのファンの話に耳を傾けていくなかで、コーエンは彼らが直面してきたホモフォビアについて深く知ることになった。とりわけ、体育会系の世界においてそれがいかにきついかも。そこで彼は、「ゲイの味方をする体育会系の男」になろうと考えたのだった。


僕はすごく男性的で肉体的なスポーツをしてきたし、あるときは世界チャンピオンと言えるポジションにいた。だから、ゲイとストレートと間の溝を埋めることができるんじゃないかと考えたんだ。ステレオタイプと無知を打ち破っていけるとね。(


そして、いじめの撲滅を訴えるための基金「StandUp Foundation」を設立。とりわけLGBTQの子どもに対するいじめの深刻さを取り上げ、それらをなくしていこうというメッセージを掲げた。

これだけでもじゅうぶんにカッコいい。なんでもコーエンは耳が不自由なことから子どものときにいじめられた経験があるそうで、そのつらさをよく知っていることも活動の後押しになったという。ただ、ここからが彼のひと味違うところだ。資金を集めるための主力商品となったのが……コーエン自身のセクシー・ショットをたっぷり載せたヌード・カレンダーだったのだ。

当然カレンダーはゲイの間で大人気となる。フル・ヌードではなく白ブリーフ姿でポーズを取っていたりするソフトなものではあるけれど、ワールド・クラスのラグビー選手のセクシー・ショット集はゲイ・メディアを中心にたちまち話題を呼ぶこととなった。さらにはサイン入りジョックストラップ(スポーツ用アンダーウェア)とややマニアックな路線の目玉商品もオークションに出品され、460ドルの高値をつける。基金の目的もさることながら、ゲイに人気があることをまったく嫌がらずに、むしろサービスしまくったコーエンはたちまちゲイ・アイコンになったのだった。

俗っぽいところからこそ世のなかは変わっていく

僕は正直、「そ、そこまでしてくれなくても……」とちょっと気が引けてしまうところもあるのだけれど、ただ、シンプルにゲイを怖がらない姿勢を示してくれるのはありがたいし、その度量の大きさはやっぱりカッコいいと思う。というのは、冒頭で書いたようにゲイは「隙あらば男を襲おうとしているモンスター」のように扱われることも少なくないからだ。コーエンは「オレのことを襲うなよ」どころか、自分がゲイにセクシーだと思われることをまったく恐れていない。

それに、案外こういう俗っぽいところからこそ世のなかは変わっていくのだろうなとも思う。ストレートの男性向けのセクシーは世のなかに溢れているけれど、ゲイ向けのセクシーはあまり表舞台に出てこない。だからこそ、真摯なメッセージとともに半裸で微笑むコーエンの姿を見て、「男をセクシーだと思う男」である自分がおかしくないのだと勇気づけられるゲイの子どももたくさんいることだろう

コーエンはその後もスポーツ界のホモフォビアをなくすための活動を続け、とりわけ、イギリス国内でゲイであることをカミングアウトしたはじめての現役ラグビー選手となったサム・スタンリーをバックアップしたことはニュースにもなった。いまでは、とくに欧米のスポーツ界は基本的にLGBTQの若者を支援しようとするメッセージを掲げているように思うけれど、それはコーエンのような人物が地道に活動を続けてきた成果でもある。

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ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん

木津毅

「おっさん=悪いもの、古いもの、いまの社会の悪しき土台を作ったもの」とされている今日この頃。ではいま、「おっさん」はどこへ行くべきなのか? 時代に合わせて生まれつつある「あたらしいおっさん=ニュー・ダッド」たちの姿を見つめながら、これ...もっと読む

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コメント

shiropan_0405 |木津毅 @tsuyoshi_kizu | 8ヶ月前 replyretweetfavorite

ru4_um https://t.co/EhGbpiCjPz 8ヶ月前 replyretweetfavorite

ryohoben 「ニュー・ダッド」更新!  8ヶ月前 replyretweetfavorite

tsuyoshi_kizu 連載『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』第11回アップされました! 今回はフォビアを軽やかに、熱く乗り越えていくダッドたちについて書きました。一週間無料で読めます、よろしくお願いいたします! https://t.co/QtwVOktA91 8ヶ月前 replyretweetfavorite