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読者の皆さんからのご投稿を元に、おれらの人生の物語、おれら自身の手で書いていきましょってことで励ましあいたいこちらの連載『ハッピーエンドに殺されない』。毎週水曜朝10時公開、そこから3日間は無料期間です。
今回は「レイプ加害者と交際した。あれはレイプではなかったことになるのだろうか。もしかしてあれは合意の上だったのか」と混乱状態にある方のお話を伺います。女性を性行為の強制によって“モノにする”という幻想にとらわれず、われわれ人類、男も女もどっちでもない人もどう自由を手にするか。明治時代など、歴史の線で現在につながる実例から考えていきます。
こんにちは。いつも楽しく文章読ませていただいています。
相談です。自分は身体の性は女です。
内面はよくわかりません。
1年以上前の話なのですが、酔った勢いで男性から性的なことをされ、「好きだったからやってしまった、付き合ってほしい」と言われ流される形でその加害者と付き合いました。(1ヶ月ほどで別れましたが…)
インターネットでそういう事案(レイプ→交際)を調べてもアダルトコンテンツのようなものしか見つからず、もしかしてあれは合意の上だったのかな?とモヤモヤしてしまいます。
でも未だに男性が怖いことがあり、自分はFTXだと言いふらして(?)自衛(男性に女だと見られないように)しています。つまるところ、Xジェンダーでもないのだと思います。
・レイプ加害者と付き合ったら、あの出来事は無かったことになるのか?
・自分の本当の性別は何なのか?
どう調べてもわからず本当に悩んでいます。質問文グチャグチャでごめんなさい。回答いただけると嬉しいです。
話してくださってありがとうございます。
無かったことになんか、まんまと無かったことになんかさせてたまるか、って、思います。
まず確認したいのですが、その弱虫クソ野r……いえ、失礼。加害男性との安全な距離をしっかり取ることができていますか?
酒飲んで「好きだったからやってしまった」? それが通用すると思ってるデケエ図体の甘ったれが身近にいること自体、えっ、まず、恐怖なんですけど。シンプルに恐怖なんですけど。
「好きだったからやってしまった」じゃねーよ。って思わん?
好きなら、本当に好きなら、酔った勢いなんかでやるなよ。性別関係なくさ。お互いの人体を大切にしてほしい。人間なんだから。酒とか好きとかで許してもらおうという魂胆が本当に甘ったれじゃん。酒に謝れ。政治家の失言とかでも思うけど。酒、造ってる人たちもさ、誇り持って仕事してんだよ。「酔った勢いでした」とかいう弱虫の言い訳に使われるために酒造ってないよ。
酔ってようが酔わせてようが、好きだろうが交際しようが結婚しようが、レイプはレイプです。犯罪は犯罪です。ならぬものはならぬのです。夫が妻を脅迫・強姦したということで有罪判決が下っている判例もちゃんとあります。
そいつのせいで、他の男性のことまで怖くなってしまってるんでしょ。人間関係に制限かかっちゃってる状態なわけ。そいつはあなたの尊厳も、人間関係も傷つけたんです。流されて付き合ったからって、無かったことになんかさせてたまるかよ。「男女二人で酒飲んでる時点で合意のサイン」とか勘違いする人もいるけど、違うからね。酒を飲むことについての合意と、性行為についての合意は普通に別。
特に、人が酒に酔った状態で性行為を求めてくるというのは、「断ったら何されるかわからない」という点でめちゃくちゃ恐怖なわけ。怖くて流されてしまう人、早く終わってほしくて積極的に動く人、やられたと思いたくなくてそこに愛があったと信じようとする人もいるけど、それは合意じゃない。護身。「男女二人で酒飲んでる時点で合意のサイン」という勘違いは、一緒に酒を飲んでもいいという信頼を、性行為の強制によって裏切ることです。わたしから見て、そいつはあなたを裏切った。あなたは怒っていいと思う。わたしは怒ってるよ、そいつの弱さに。
てなわけでまずはそいつが、あなたの生活に一切二度と干渉することができないようにしてほしいと、わたしは切に思います。できれば現住所とか生活圏を知られないようにしたい。身の安全が確保されたなら、わたしは、そいつに知ってほしい。あなたがその後、悩んで、悩んで、護身のためにFtXだと言いふらして、この連載にも相談を寄せてくださるくらい悩んでいるということを。そいつに、そいつのやったことの重みをわかってほしい。「好きだから」じゃねーよ、「好き」をなめんな。
むかしむかし、人類がもうちょっとアカンかった頃はね、実際、「好きだからやってしまった」という幼稚さでしたよ。女は人間ではなく、強奪されるモノ扱いされていた。佐宮圭氏によるノンフィクション『さわり』には、嫌がる女性をニワトリの捕獲かごで捕まえ、強姦し、「娘が“キズモノ”になったから俺にくれ」とその父親に申し出て無理やり結婚した明治日本のやべえ男の話が出てきます。いや、父親もOKすんなよ、っていうかなんで父親に聞くんだよ! パパと結婚してえのか!! って話ですけど。なんでかっていうと明治時代、結婚前の娘は父親の所有物だと考えられていたからですよね。女は、モノ扱いだったんです。「娘さんを僕にください」。
あと、古い本ですけど、エドワード・ウエスターマーク『人間結婚史』。第五章は丸ごと、地球上あらゆる地域の暴力の話です。他部族を襲い、男を殺して女を奪う戦い。男が主導権を握るため、女に性欲があることは恥ずかしいこととされ、男が女の髪をひっつかんで無理やり奪い去ることこそが世間体の良い結婚の儀式だとされた地域。「レイプ」という言葉は、もともと、「ひっつかむ・奪い去る」という意味のラテン語「rapere」からきています。男にとって女はひっつかんで奪い去るモノだとされていた時代の風習は、地球上あちこちに残っています。お住まいの地域の郷土資料コーナーに行って、婚姻習俗の本を読んでみると、地元でも見つかるかもしれません。「花嫁が花婿に初夜から乱暴されないように女友達が一緒に布団に入る」とか、「親が決めた結婚の花嫁行列に、婿になれなかった男とその友人達が協力して奇襲をかけ花嫁をさらう」とか、いろんな風習が残ってますよ。
だけど、ね。そんな歴史の先に。
人間、気づいてしまうんです。
モノ扱いすることもされることも、本当は、寂しいって。
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