“GAME” のステージを用意したPerfume
柴那典(以下、柴) ここからはさまざまなアイドルグループについて語っていこうかと思います。まず、これまで話してきたような、ロックフェスにアイドルが出るようになった現在の状況の先駆けとなったのがPerfumeでした。
レジー 2007年に『ポリリズム』が出て、そこで「おっ!」と思った人達が、今のアイドルシーンをファンとして支えている感じはありますね。
Perfume「ポリリズム」ミュージックビデオ
さやわか ただ、彼女たちが2007年に最初にロックフェスに出るようになった頃は、まだアウェイ感が強くありました。音楽性もロックではないし、かといってアイドルソングでもない。エレクトロニカだった。しかし、圧倒的なパフォーマンス性の高さで人々を魅了していった。しかも声にはオートチューンがかかってる。口パクかどうかっていうことすら問題じゃなくしてしまった。
アイドルのパフォーマンスもロックスターのように人の心をつかむものなんだっていうことを見せてしまったのが彼女たちだと思います。
レジー Perfumeをきっかけに、ロックファンがアイドルのステージの楽しみ方を知った。だから今、アイドルが有名なフェスに出ていても抵抗なく受け入れることができる。そのことがシーンの活性化につながっているのは大きいと思います。
さやわか 彼女たちは疑似恋愛を重視していないというのも大きいですよね。パフォーマンス力で人気をつかんだわけで、それがアイドルとしてエポックメイキングなことだった。結成もブレイクもAKB48より前で、確実にAKB48以降の今のアイドルシーンを準備した存在だということが言えるわけです。
レジー Perfumeがブレイクした2007年にAKB48は企画枠ではありますが紅白歌合戦に初登場しているんです。その頃からアイドルシーンが変わってきたということは思いました。
柴 アイドル市場の推移を示したグラフも、やっぱり2007年が底になっていますね。その後にAKB48がブレイクしてからは右肩上がりになっている。
レジー Perfumeも2008年には『GAME』というアルバムがすごく売れましたからね。
AKB48は存在自体がフェスティバル
柴 AKB48のブレイクは、アイドルシーンの歴史の中ではどういう位置づけなんでしょうか?
さやわか AKB48は、今の時代は握手のような接触も含めた現場での客とのコミュニケーションが何より大事だということを明確に示したんですね。その思想が典型的にわかる例として、AKB48はメディアに出る前にまず劇場を作ったということが挙げられると思います。そして、そこで毎日ライブをやっていればドラマが発生する。
モーニング娘。は結成当時テレビというメディアを使って物語を演出していたんだけれど、そうではなくて、自家発電的に物語が生まれる仕組みを作ったわけですよね。
柴 今回の鼎談のテーマが「アイドルとロックの蜜月」なんですけど、僕の見立てでは、絶対にロックフェスに出ないアイドルがAKB48だと思っているんです。
さやわか AKB48は、結成されるまでにあったアイドルシーンを俯瞰して、それを全部自分たちで作ったようなところがある。テーマパークみたいなものですよね。だからわざわざロックフェスに出なくとも、自分たちのコンサートで関連グループが全部出たら、それだけでフェスになるようなところがあるんじゃないでしょうか。
レジー AKB48のドーム公演のようなワンマンって、ほんとにフェスみたいなんですよ。全グループが出てきて、出演CMやドラマと連動する企画があったりして、それだけで一個のフェスティバルになってる。
柴 そうなんです。もちろんa-nationのようなフェスには出ますけれど、AKB48はそれ単体でロックフェスと同じ構造を持っているんです。
先ほどROCK IN JAPAN FESTIVALは100組以上の出演者がメインステージのヘッドライナーを目指して勝ち上がっていくゲームであるということを話しましたよね。そう考えると、たくさんのメンバーがセンターを目指して勝ち上がっていくAKBの総選挙も仕組みは同じなんです。
さやわか つまりそれは、Perfume以降のアイドルシーンが既にゲーム化していたということなんですよね。たくさんいる地下アイドルシーンから人気をつかんだグループが勝ち上がってテレビやフェスに出るようになる。そして、AKB48はその構造すらも自前で作り出した。
つまりグループ内の順位付けをはっきりと数字で示してゲーム性を明らかにしたのが「シングル選抜総選挙」なんですよね。
柴 この鼎談のための打ち合わせをしている時にレジーさんが「握手もモッシュも一緒なんだ」ということを言っていたんです。
その言葉がすごく印象的だったんで、そこから考えたんですが、考えてみれば握手もモッシュも身体的コミュニケーションなんですよね。アイドルでもロックバンドでも、お客さんが求めているのはフィジカルなコミュニケーションである。つまり、握手会でのファンへの接し方の良し悪しに「神対応」や「塩対応」という言葉があるように、AKB48のメンバーは「いい握手」をすれば総選挙というゲームを勝ち上がる。
一方、ロックバンドはいいライブをして、お客さんが身体をぶつけあうモッシュが起こるような盛り上がりを作れば、フェスというゲームを勝ち上がる。そういうことなんじゃないかと思います。
※塩対応:神のように素晴らしい対応である「神対応」の対義語で、しょっぱいあるいは冷たい対応のこと
さやわか とは言っても、ロックファンもアイドルファンも「俺達がやってるのはゲームじゃない」みたいな言い方をする人が多いんですよ。「魂があるかどうかだ」みたいなことを言ったりする。
しかしその発言自体が、ロックとアイドルに似たメンタリティがあることの証左じゃないかとも思います。いずれにしてもそこには似た構造、同じようなシステムがあるんだっていうことは確認したいですし、特に音楽産業やメディアはそれに自覚的であるべきだと思いますね。
「恋するフォーチュンクッキー」は名曲かクソ曲か
レジー AKB48については、僕はあまり語られることのない音楽性の話をあえてしたいと思っているんです。
さやわか それは大事なことですね。
レジー 僕がおもしろいと思ってるのは、秋元康が派生ユニットでかなり実験的なことをやっていることなんですね。
ノースリーブスという高橋みなみと小嶋陽菜と峯岸みなみのユニットが『キリギリス人』というシングルを今年にリリースしたんです。表題曲をゴールデンボンバーの鬼龍院翔が作曲しているんですが、カップリングに3人それぞれのソロが入っていて、その曲を小室哲哉と石野卓球と川本真琴が書いてる。
たぶん、ももクロが同じことをやったらもっと騒ぎになってるような人選だと思うんですけど、全然盛り上がらなかった。
柴 あれはもうちょっと盛り上がってもよかったですよね。
レジー 川本真琴が峯岸みなみに書いた「君に恋をした」とか、すごくいい曲なんですよ。でも、そのシングルが出た後に峯岸みなみの坊主の話があって、そっちに話題がとられてしまった。
柴 AKB48の音楽性の話では、最新シングルの「恋するフォーチュンクッキー」について語りたいですね。僕も含め、周囲のライターや音楽評論家的な人は、ほぼ全員「この曲はいい!」と絶賛している。
さやわか 何がいいんですか?
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