柴那典(以下、柴) レジーさんは実際にTOKYO IDOL FESTIVALに行かれて、ロックフェスと近い構造を感じたりしましたか?
レジー そうですね、近いものがあると思いました。今年のTOKYO IDOL FESTIVALには指原莉乃が率いるHKT48が出てたんですね。そのステージがめちゃくちゃよかったんですよ。
何がよかったかと言うと、指原莉乃が自分達のファンだけじゃない場所で何をするかを徹底的に考えてセットリストやMCを作っていた。AKB48の有名な曲を出し惜しみせずどんどんやって、しかも自分たちの名前とキャラが伝わるようなパフォーマンスをしていた。出演者にとって、フェスというのは初めて観るお客さんの心をどれだけつかめるかという勝負の場でもある。そういう構造をちゃんと理解したパフォーマンスだったんです。
※HKT48:2011年にデビューした福岡・博多を拠点とするAKB48の姉妹アイドルグループ
柴 TOKYO IDOL FESTIVALというのは、アイドルにとって「勝ち抜く場所」であるわけですね。ここで初見のお客さんの心をつかめば、人気を獲得していくことができる。
レジー これはロックフェスでも同じことですね。そういうことを意識してステージに立つバンドは、ちゃんとお客さんをつかんでいく。つまり勝っていく。
柴 そうなんです。特に邦楽バンド主体のROCK IN JAPAN FESTIVALにはその傾向が顕著です。ロックフェスって、バンドにとっては「勝ち抜く場所」なんです。どうやってお客さんの心をつかんで、人気を獲得して、メインステージに昇格していくか。そういうゲーム的な構造がフェスにある。
さやわか パフォーマーなんだから本来、当然なんですけどね。ステージで一見さんの心をつかむっていうのは。
柴 もちろんそれはどんなイベントでも当たり前のことなんですが、フジロックやサマーソニックのような洋楽主体のフェスとROCK IN JAPAN FESTIVALのような邦楽主体のフェスでは少し構造が違うんです。
フジやサマソニはたいてい海外の大物がトリなんですけど、ROCK IN JAPAN FESTIVALのような邦楽フェスは、バンドが動員を増やして人気を獲得していくと最終的にメインステージのヘッドライナー(最終出演者)になることができる。そこを頂点にした階層構造が生じているし、出演者たちがそこを目指すゲームになっている。
さやわか トリの座の奪い合いなわけですよね。
柴 そういうロックフェスの構造があった上で、そこにアイドルグループが進出してきたというのが、2013年の状況だと思います。
さやわか そこでアイドルグループが台頭できたのは、アイドルがパフォーマーとしてお客さんの心をつかむという当たり前のことをきちんとやるのを前提とした存在だったからではないかと思いますね。
Perfumeが体現した『BECK』的サクセスストーリー
レジー ROCK IN JAPAN FESTIVALに関して言えば、今年はPerfumeがヘッドライナーをつとめました。そのことが特に象徴的だったと思います。
※Perfume:2005年にメジャーデビューした中田ヤスタカプロデュースによる女性3人組テクノポップユニット
柴 Perfumeはこれまで5年連続でROCK IN JAPAN FESTIVALに出演していますよね。しかも順調に駆け上がってきている。たしか、最初に出たのが派生である年末のCOUNTDOWN JAPANだった。
レジー 2007年末は初日のトップバッターで、一番小さいステージへの出演でした。
柴 その翌年、2008年がROCK IN JAPAN FESTIVALの初登場で、二番目に大きいステージのトップバッターをつとめている。
レジー その時のPerfumeは観てました。すごい混雑で、入場規制でした。
柴 その翌年のROCK IN JAPAN FESTIVALがメインステージのトップバッター。それから二年間は昼過ぎの出演。去年がトリ前、そして今年がトリ。見事に勝ち上がってきてる。
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013の最終日、左端メインステージのトリをPerfumeが飾る
さやわか かっこいいですね! 『BECK』みたいだ(笑)。
柴 そうなんですよ。まさに「BECK的ストーリー」というのがポイントです。ロックバンドの成功物語を書いた『BECK』というマンガが00年代にあって、それはもちろんフィクションなんですが、ROCK IN JAPAN FESTIVALはリアルの場所でその物語性を体感する場所になっている。
レジー Perfumeは2009年頃にはあ~ちゃんが「ここは私達にとってホームです」と言ってるんですよね。だから、彼女たちとしてもROCK IN JAPAN FESTIVALで「上」、つまりもっといい時間帯での出演を目指すという意識はあったと思います。
柴 しかも、今年のPerfumeのステージであ~ちゃんが感動的なことを言ったんです。
「2006年くらいの一番売れなかったとき、広島に帰ろうと思ったときに信じてつなぎ止めてくれたマネージャーと一緒に、この場所に来れた。それがすごく嬉しいです。誰よりもイモっ子だった自分達が、こんなとこまで来れる。そういう曲をやります」と言って、最後に『Dream Fighter』という曲をやった。
Perfume「Dream Fighter」ミュージックビデオ
さやわか つまり今はむしろ、アイドルがロックバンドのようなサクセスストーリーをきれいに見せてくれるわけですよね。スカした態度を見せずに青春っぽく勝ち上がっていく。それは見ていて熱いものがあるし、楽しいですよね。