電子書店化する書店
暑いですね。暑すぎる。夏は頭が働きません。というわけで、今回はひとやすみで雑談させてください。前回まで重い話が続きましたし……。
去る七月四日に、この連載でもたびたび触れていた「チェルノブイリ本」こと、『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図βvol.4─1』を発売しました。ぼくはこの本の編集長であると同時に、版元の経営者でもあります。この一ヶ月はAmazonのランキング推移と、書店からの注文数に注目しています。基本的にはいままでの「思想地図β」シリーズではもっとも好調な売れ行きです。しかしその一方で見えてきたのは、リアル書店が本来の役割を見失っている、ということです。
まずタイトルの「チェルノブイリ」という単語だけで、入荷数を絞られる。また、ビジュアル中心の誌面にあわせて大きめの判型に切り替えた結果、人文書の棚に置きにくく、どこに並べていいのかわからないという。もちろん、すべての書店が冷淡だということではなく、紀伊國屋さんやジュンク堂さんのように、好意的に扱ってくれる大手チェーンもあるのですが、全体的にそういう傾向が見られます。
おっしゃることはわかります。しかし、この反応が意味しているのは、いまの書店さんが、同じような判型の、同じような売れ筋のキーワードが入った本しか扱いたくないということです。この連載のキーワードを使えば、書店の仕入れ担当者は固定された検索ワードしか持っておらず、それに当てはまらない本には対応できなくなってしまっている。けれどもそれこそがAmazonのようなネット書店が得意とする分野です。刊行点数が多く、いちいち内容を見ていられないというのもわかりますが、配本されてきたものをただ機械的に並べるというのであれば、それは電子書籍のマーケットそのものです。この状態では、リアルの書店は電子書店に駆逐されていくことになります。郊外型書店が得意とする新書とマンガこそ、本当は電子書籍と親和性が高い。リアル書店は、自分の強みを見失い、どんどん電子書店の真似をするようなことになっているのではないか。
いまは本屋大賞だなんだと書店員を持ち上げるのがトレンドですが……、「思想地図β」シリーズの注文数の推移を見ると、正直、書店員さんのリテラシーに不安も覚えます。多くの書店さんは、初回の納品数を決める上で、前回の入荷数と販売数しか見ていない。内容どころか販売価格も考慮していない。定価が3200円の本(β3)と1400円の本(β4)では当然発注数を変えるべきだと思うのですが、まったく考慮されていないのですね。不安になります。これで本当に人間がコントロールしていると言えるのか。むしろ、機械的に算出されるAmazonの発注アルゴリズムの方がずっと賢いのではないか。
ツイッターが表現を鍛える
そんな経験をして、むしろぼくは初心に返ってきました。ゲンロンは創業時はツイッターでの宣伝に特化し、書店は置いてくれるところだけ置いてもらえればいい、とろくに営業もかけていなかった。でもそのあと、社員も増え、経営規模が大きくなるにつれて、いろいろ営業もするようになっていた。でもあまりそちらは効果がない。うちの最大の宣伝媒体はいまだにぼくのツイートで、そしてそれでいいんですよね。その原点に立ち返りつつあります。
ツイッターといえば、昔から「ツイート術」について聞かれることが多いのですが、ぼくはもともと、複数人で話しているときに、全員が知っているわけではない話題や人名が持ち出されると、生理的にすごくそわそわしてしまうんですよね。同じ席の一部のひとが、彼らだけの共通の友人について冗談とか飛ばしあうと、頼むからやめて! とか言いたくなる。
共通知識の有無に敏感で、これはリアルな会話でもそうです。だから、会話に参加しているひとが増えれば増えるほど話しにくくなるのですが、たぶんツイッターではこの特性が生きている。おかげで自然と多くのフォロワーに届き、リツイートされても伝わるツイートができるようになっているのだと思います。
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