そもそも、友達になるってどういうことなんだろう | 1

東京でクッキー屋さんをしている「桜林直子(サクちゃん)」と、京都で小説家として文章を書く「土門蘭(蘭ちゃん)」は、生活も仕事も違うふたりの女性。この連載は、そんなふたりの交換日記です。ふたりが気が合うのは、彼女たちに世界の「そもそも」を見つめなおすというクセがあるから。さて、交換日記のはじまりです。

サクちゃんへ

こんにちは。
今日から交換日記が始まりますね。

まずは「交換日記をやりましょう」と、誘ってくれてありがとうございます。
子供の頃によくやっていましたが、大人になってからもこんなお誘いがあるとは思ってもみませんでした。
大人になったら、そういうのは卒業すると思っていたのでしょうね。
「そういうの」とはつまり、自分がこの世界に対しどう感じ何を考えているのかを、教え合うことです。
大人になったら、世界と折り合いがつくと思っていたのかな。

サクちゃんが交換日記に誘ってくれたのは、わたしがこんな言葉を日記に書いたときでした。
「現実逃避先を、違う場所にしてはどうかなと思う」

あのときわたしは仕事がすごく忙しくて、やることがたくさんあるくせに、ネットサーフィンばかりしてしまっていたんです。完全な現実逃避でした。
それを自覚したとき、逃避をなくすことは無理でも、逃避先を選ぶことはできるんじゃないかなと思ったんです。たとえばネットサーフィンをするのではなく、読みたかった本を読んでみるとか。観たかった映画を観てみるとか。

そんなことを考えていたら、サクちゃんからこんなメッセージが来たのでした。

現実逃避先、わたしも探していて、わかるわかると思ってついメッセージ。
わたしの案は、ひとつは交換日記(往復書簡)はどうかなと。たぶんツイッターとあまり変わらないけど相手がいるという安心感。
ほんとはおしゃべりしたいけど代替えの息抜きに、と思いついた一案です。
もし交換日記やりたくなったら、やろう〜!

それを読んでわたしは、「逃避先を選ぶ」というのは能動的なことなんだなと思いました。
ただ漫然とネットサーフィンをしてゆるやかな刺激を受け続けるのではなく、読みたかった本を読み、観たかった映画を観、話したかった人と話す。わたしは、時間をそういうふうに使いたいと思ったのだと思います。
それで、なんて素敵なアイデアなのだろうととても嬉しくなり、二つ返事で「やりましょう!」と答えました。

でも実はわたしたち、その頃まだ一度しか会ってなかったんですよね。
ちゃんと話したことはないけれど、お互いの書いたものを読んでいる、というだけの仲でした。
「それなのに、どうしてサクちゃんはわたしに『交換日記をしよう』と言ってくれたんだろう?」
わたしはまず、それが不思議だったんです。

その誘いって、「友達になろう」ということに近いと思うんです。だけど、どうしてそう思ってもらえたんだろう。どうしてわたしはすぐ快諾できたんだろう。
そもそも、友達になるってどういうことなんだろう、って思ったんです。


ところでわたしは幼い頃、学校に行くのが苦痛でした。
友達はいるし、遊んだり話したりはするのだけど、どうも無理していたんです。本当に心を開いて話せる子がいない。これはわたしの大きな悩みでした。

それで高校に入ったとき、ひとつ決めたことがあります。
「『友達になる』んじゃなくて、『友達をつくる』をしてみよう」と。
わたしはクラスの中を注意深く見渡して、誰にするかを真剣に考えました。最終的に選んだのは、ある女の子です。彼女の発する言葉がわたしは好きだと思いました。やわらかくておもしろくて知性があって。

ある日わたしは彼女を夜ごはんに誘い、図書館の近くにあるイタリアンレストランでたくさん話をしました。帰り際に「友達になってほしい」と言うと、彼女は「ぜひ」と言って、その夜わたしたちは照れながらも改めて友達になったんです。
あれはわたしが誰かを初めて食事に誘った日でもあり、初めて「友達をつくる」をした日でもありました。20年経った今でも彼女とはまだ付き合いがあり、大事な友達のままです。

今思うと、好きな子をデートに誘い、お付き合いを申し込んだみたいだな、と思います。まるで恋人をつくるときみたいだと。
だけど「恋人」は注意深く相手を選び丁寧に事を進めながらつくるのに、「友達」はそうじゃないって、なんだかおかしいかも、と思ったんですよね。だって、自分と多くの時間を過ごし、影響を与え合うという点では同じなんだから。

わたしはそれからも、ずっとそんな感じで友達をつくってきたように思います。「なる」んじゃなく「つくる」。わざわざ「友達になってほしい」とまでは言わなくなりましたが、気持ちはそうです。だからわたしは友達が少ないのだけど、友達はみな、ぜひともに時間を過ごしたいと思う大事な人ばかりです。

ああ、現実逃避先を選ぶというのと、同じことかもしれないですね。わたしは、友達に「能動的に」なりたかったんですね。


わたしは、サクちゃんと友達になりたいな、と思いました。
なぜそう思ったかというと、サクちゃんの発する言葉が好きだと感じたからです。
高校時代に出会った彼女もそうでしたが、どうやらわたしは「言葉」に惚れるところがあるみたいです。

サクちゃんの言葉はとてもわかりやすい。難しいことを易しく伝えてくれる。冷静で、清潔で、つまりきちんと「ひとり」な言葉。だから読んでいると落ち着くし、自分もまた自分の「ひとり」な言葉で話そうと思います。

多分それが、わたしが友達に、いやもしかしたら人間関係全般に求めることなのかもしれない。「ひとり」と「ひとり」で向き合い、お互いから見える世界について語り合う、ということ。
だから、大人になっても交換日記ができることが、こんなに嬉しいのでしょう。だってわたしはまだまだ世界と折り合いがついていないし、それを語り合いたいから。

サクちゃんはどうでしょうか。サクちゃんにとって友達ってどういうものですか?
あるいは最近思っていることとか、いろいろ聞かせてください。
これから交換日記が楽しみです。

追伸:
サクちゃんは、かためのプリン以外で何が好きですか?
わたしはカステラが大好きです。京都の北野天満宮に「カステラ ド パウロ」というおいしいカステラ屋さんがあるので、いつか一緒に行きましょう。

蘭より

この連載について

サクちゃん蘭ちゃんのそもそも交換日記

土門蘭 /桜林直子

東京でクッキー屋さんをしている「桜林直子(サクちゃん)」と、京都で小説家として文章を書く「土門蘭(蘭ちゃん)」は、生活も仕事も違うふたりの女性。この連載は、そんなふたりの交換日記です。ふたりが気が合うのは、彼女たちに世界の「そもそも」...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

sac_ring 本日は第1回、第2回のふたり分の掲載です。来週から毎週火曜日にひとりずつ更新されます☺️ 👉 https://t.co/Bo4NQfZvHz… https://t.co/EKBo160XwS 7ヶ月前 replyretweetfavorite