山内宏泰
矢島陽介「PORTRAIT」展——表情を取り去ると見えるもの
まだまだ残暑の厳しいおりに、少しひやっとできる展示はいかがでしょうか。最近美術の展示スペースが増えているのが、東京の湾岸方面。今回はそのなかのひとつ「916small」で開催中の、写真家・矢島陽介の写真展示・「PORTRAIT」をご紹介します。「ポートレイト」という名前の通り、飾られているのは人物写真ばかり。しかしどこか、世間一般の「ポートレイト」とは違う、人間味のない印象を受けます。その秘密は、矢島が写真を通して実現しようとしている「目的」にあるようで……。
ごきげんいかがでしょう。今回は、東京の湾岸地区へ出かけてみては、とのお誘いを差し上げます。東京ではこのところ湾岸方面に、アートを観る場所が増えてきているんですよ。
美術の展示には広い空間が必要ですし、できれば天井も高いほうが、大きな作品を飾れて都合がいい。条件に合った建物を探すとなると、ビルや住宅がひしめく都心ではなかなか難しい。そこで、比較的土地に余裕のある海沿いに設けられることが多いのですね。
山手線の浜松町駅から、東京湾方面へ向けて歩くこと10分ほど。クルーズ船が発着する竹芝埠頭近く、倉庫のような外観の建物のなかに「gallery916」はあります。
600㎡という大空間は、主に写真作品を展示することに使われます。現在開催中なのは、「Kozo Miyoshi 1972~」。三好耕三は精緻なモノクロプリントで知られる写真家です。会場にずらりと並ぶ風景写真は、グレーの濃淡だけであらゆる事物を立ち表しています。まるで細部まで克明に描写された、超絶技巧の墨絵みたいですよ。
広大なメインギャラリーもいいのですが、今回は、脇にあるサブギャラリー「916small」で開催されている別の展示に大いに注目してみましょう。Smallという名のとおり、こちらはかなり控えめなサイズの空間。ですが、一歩足を踏み入れると、そこにはなにやら異様な空気が立ち込めていますよ。
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この連載について
山内宏泰
世に“アート・コンシェルジュ”を名乗る人物がいることを、ご存じでしょうか。アートのことはよく知らないけれどアートをもっと楽しんでみたい、という人のために、わかりやすい解説でアートの世界へ誘ってくれる、アート鑑賞のプロフェッショナルです...もっと読む
著者プロフィール
ライター。美術、写真、文芸その他について執筆。著書に『写真のフクシュウ 荒木経惟の言葉』(パイインターナショナル)『写真のフクシュウ 森山大道の言葉』(パイインターナショナル)『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)『写真のプロフェッショナル』(パイ インターナショナル)『G12 トーキョートップギャラリー』(東京地図出版)『彼女たち』(ぺりかん社)など。東京・代官山で毎月第一金曜日、写真について語るイベント「写真を読む夜」を開催中。東京・原宿のスペースvacantを中心に、日本写真を捉え直す「provoke project」開催中。
公式サイト:http://yamauchihiroyasu.jp/