車を十分ほど走らせたところに、教えてもらった住所はあった。
山の斜面にぽつぽつと住宅があり、中でも一番高級感のある一戸が彼の住まいだった。
「すっごい豪邸!」
「ホントに」
「軽井沢かどこかの別荘みたいだね」
海斗先生がインターホンを押すと、年配の女性の声が返ってきた。どうやらお手伝いさんらしい。
「お手伝いさんだってー」「マジすごいねー」めぐと鈴は更に興奮し、手を握りぴょんぴょんと跳ねる。
門を開けてくれたのは先ほどの声の主のようで、わたしたちを見るやいなや、にっこりと微笑んだ。
「まあまあ! 音浜高校の先生と生徒さんでしたか。さあどうぞ中へ」
室内に通されると、やはり豪華なリビングが待ち構えていた。シャンデリアにアンティーク調の家具、絶対に他界を思われる調度品の数々。
女性は高級そうなティーカップに紅茶を注いだ後「少しお待ちくださいね」と部屋を出て行った。
わたしたちは柔らかなソファーに腰を下ろし、紅茶をいただく。
目の前にはクッキーも置かれていた。いつもなら真っ先に手を伸ばしそうな鈴なのだが、今日は借りてきた猫のように、じっと大人しくしている。
時計の音だけが響いており、何故か喋るのがはばかられる。ここはそんな空間だった。
勇馬って本当にどんな人なんだろう?
怖い人じゃないといいな……。
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