古い校舎の廊下で、わたしは黒板消しの掃除をしていた。
壊れ気味のクリーナーがガーガーと唸る中、音楽室から「あ~あ~」とため息交じりの声が聞こえ、わたしはドアの隙間から室内を見る。すると、めぐが長机に突っ伏し、椅子に座っている鈴に話しかけていた。
「そのイケメンくん、このまま学校も辞めちゃうのかなー…」
「さー、どーなんだろうなねー?」
対する鈴はさほど興味なさそうに、ご当地ポッキーをかじりながら返す。
「何だよー、鈴。彼氏持ちだからって」
「はあ?」
「れ・ん・く・ん! ここ最近、前よりイチャついてるじゃん。幼なじみから彼氏に昇格とか。いーなー。少女漫画みたいでマジ憧れだよ」
「何言ってんの。蓮とはホントにそんなんじゃないんだって」
めぐはフ~ンと納得がいかない様子だ。
「毎朝一緒に投稿してるのも、朝弱い蓮を起こしてやってるからで。アイツすごい低血圧だから。んで、そのお返し的に、チャリ乗っけてきてもらってるわけ。それに、もしもだよ? 彼氏……とかになってたら、めぐに報告しないわけないじゃん」
ハタとめぐの動きが止まる。
「それは非常に嬉しい答えだね」
「でしょ。はい、ポッキー」
「ありがと。ん……? これ何味?」
「抹茶あずきだって」
「へー。ふしぎな味」
二人のポリポリ食べる音が第二音楽室内に響く。
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