雨宮ひとみ /halyosy
第5回 春
待望の入部希望者と喜んだのもつかの間、その子は入部どころか、登校拒否中!? ・・・・・・でも、待ってるだけじゃいけない!未来のとった行動とは?
大ヒットボーカロイド小説『桜ノ雨』シリーズの第2弾『桜ノ雨 僕らが巡り逢えた奇跡』の一部を紹介します。シリーズ最新刊『Fire◎Flower』も発売中!

古い校舎の廊下で、わたしは黒板消しの掃除をしていた。
壊れ気味のクリーナーがガーガーと唸る中、音楽室から「あ~あ~」とため息交じりの声が聞こえ、わたしはドアの隙間から室内を見る。すると、めぐが長机に突っ伏し、椅子に座っている鈴に話しかけていた。
「そのイケメンくん、このまま学校も辞めちゃうのかなー…」
「さー、どーなんだろうなねー?」
対する鈴はさほど興味なさそうに、ご当地ポッキーをかじりながら返す。
「何だよー、鈴。彼氏持ちだからって」
「はあ?」
「れ・ん・く・ん! ここ最近、前よりイチャついてるじゃん。幼なじみから彼氏に昇格とか。いーなー。少女漫画みたいでマジ憧れだよ」
「何言ってんの。蓮とはホントにそんなんじゃないんだって」
めぐはフ~ンと納得がいかない様子だ。
「毎朝一緒に投稿してるのも、朝弱い蓮を起こしてやってるからで。アイツすごい低血圧だから。んで、そのお返し的に、チャリ乗っけてきてもらってるわけ。それに、もしもだよ? 彼氏……とかになってたら、めぐに報告しないわけないじゃん」
ハタとめぐの動きが止まる。
「それは非常に嬉しい答えだね」
「でしょ。はい、ポッキー」
「ありがと。ん……? これ何味?」
「抹茶あずきだって」
「へー。ふしぎな味」
二人のポリポリ食べる音が第二音楽室内に響く。
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この連載について
雨宮ひとみ /halyosy
「もしも、初音ミクが女子高生だったら・・・」で話題となったボーカロイド小説『桜ノ雨』シリーズ。第三弾として、スピンオフ作品『Fire◎Flower』が8月28日に発売されました。
それを記念して、シリーズ第2弾にあたる『桜ノ雨 僕ら...もっと読む
著者プロフィール
脚本家、小説家。雑誌編集者を経てフリーの文筆家となる。脚本、小説、漫画原作、ゲームやドラマCDのシナリオなどを手掛ける。VOCALOID好きが高じてノベル『桜ノ雨 僕らが巡り逢えた奇跡』の執筆を担当することに。小説『Romeo×Juliet』(角川ビーンズ文庫)、『おんたま!』(ニコニコアニメチャンネル)他。
ニコニコ動画にてVOCALOID楽曲の投稿、また「歌ってみた」カテゴリでの活動をしているクリエイター。2008年2月に投稿した初音ミク楽曲『桜ノ雨』はネット界隈だけでなく、一般層にまでファンを作るほど大きな反響をよんだ。自身が立ち上げた「桜ノ雨プロジェクト」により、『桜ノ雨』を合唱できるように支援している。ボカロ曲だけでなく、歌い手などへの楽曲提供も行っている。