第7話 温もりと尊敬

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。第7回はネットフリックスの『クィア・アイ』とエドワード・P・ジョーンズの作品から、人としてのまっとうさについて考えます。

人は変われる 

人は変われるんだ。ネットフリックスのシリーズ、『クィア・アイ』を見ていて僕は衝撃を受けた。シーズン4の第2話「デキる身障者」でのことだ。この回の主人公はウェスリーで、カンザスシティーの東側で育った。ドラッグや銃が蔓延した黒人居住区で、彼はワルになっていく。盗みや麻薬の密売に手を染めるようになったのも、この環境では自然なことだった。

 ある日決定的なことが起こる。路上で何の理由もなく、知り合いの知り合いに銃撃され、腹に5発の銃弾を食らった彼は、そのまま2年間病床を離れられなくなってしまう。日に数時間しか意識がない状態の彼を献身的に看病したのは母親のドーンだった。ようやくウェスリーは回復するが、彼の下半身は永久に動かない。

 だが彼はめげない。体を鍛え、健康な食事をし、徐々に自分を鍛え上げる。「Disabled but Not Really」(デキる身障者)という団体を立ち上げ、寄付を募って他の障害者たちの支援に乗り出す。そしてジムで彼らに筋トレを教える。彼の目標はこうだ。障害者は健常者とは異なっている。でも下の存在ではない。異なっていてもいいんだ、自分らしくいていいんだ、ということをみんなに感じさせたい。

 ここまででも、わりと奇跡の物語のように思える。けれども彼だって完璧ではない。家は使いにくく、服は適当で、髪は撃たれた日以来、一度も切っていない。そこにファブ5の5人のゲイたちが乗り込んで変身を支援する、というのは他のエピソードと共通しているが、そこには大して驚きはない。センスのいい人たちを投入してお金をかければ、十分に実現できるだろう変化でしかないからだ。

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世界文学の21世紀

都甲幸治

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。翻訳家として、研究...もっと読む

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mrnovember0708 「社会の大きな物語と日常の小さな物語を決して混同するな。もちろん小さな物語は弱い。けれども固有の強さを持っている。そして文学とは、そうした小さなものをすくいとるメディアではないか。」 https://t.co/HQ0nnUviwl 5ヶ月前 replyretweetfavorite

_f_u_t_o_n_ クイア・アイS4の2話、私はそんなに良いものに見えなかったんだよな…番組の大きなストーリーが小さな感情を押し流している感じが強くて戸惑った。もう一回見直そうかな。 7ヶ月前 replyretweetfavorite

baldhide ネットフリックスの『クィア・アイ』とエドワード・P・ジョーンズの作品から、差別と社会、寛容について書かれた都甲さんのエッセイ。すごくいい。 > 7ヶ月前 replyretweetfavorite