世間から、ズルいと言われたくない、オンナの心理。

共働きで生涯現役を勧める『2億円と専業主婦』が話題の橘玲さん。女性の本音を語らせたら右に出る者のいない鈴木涼美さん。ふたりの異色対談が実現しました。鈴木涼美さんの新刊、『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』には、主婦や独身バリキャリやワーママなど、30人の女性が登場します。オンナのしあわせはどこにある? 前回は「子どもがいて働くのは、やっぱりしんどい」という結論に。さて、今回は。

世間から、ズルいと言われたくない女性の心理

鈴木 子ども預けるのに抵抗感があるとか、まわりから何か言われるとか、そもそも費用がすごくかかるとか、そういうことで、もうワーママやめようかな、と思っている人は、結構いると思います。専業主婦がしあわせかどうかより、ワーママが報われないというか。

 リベラルな社会の原則は、「他人に迷惑をかけないのなら、自分のお金で何をしようとその人の勝手」ということです。日本の社会はなぜかこのシンプルな理屈を許容しないのですが、それが私にはものすごく不思議です。
 都市部では共働きで世帯年収が1500万とか2000万円の家庭もそれほど珍しくないと思いますが、だったら乳母でも住み込みのメイドでも雇えばいいし、それは個人の自由な選択なんだから他人があれこれいう話じゃないですよね。でもこれは日本だけのことではなくて、フェイス・ブックのCOO、シェリル・サンドバーグは1000億円の資産を持っているのに髪振り乱して自分で子育てをして、その経験を書いた本(『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』)が世界的なベストセラーになりました。あれって女性を元気づけるというより、逆効果になった気がしますけど。


2億円と専業主婦

鈴木 そうですね。

 1000億円もあるんだったら、育児なんてぜんぶアウトソースして、子どもの運動会とか楽しいことだけやればいいじゃないですか。そういう選択が道徳的に許されないというのは、欧米先進国のある種の頑なさと日本社会の男性中心主義的な文化の不幸な融合で、そこに女性が縛られて選択肢がなくなっているということではないでしょうか。

鈴木 なるほど。

 べったり母親業をやりたい人はそうすればいいし、やりたくない人は家事・育児をすべてアウトソースしても、それはその人の自由な人生。こういうリベラルの原則を受けつけないことが、日本の女性を苦しめてるのかなと思います。

鈴木 そうですね。なんかこう、自分は苦労はしてるけど、その分、あの人にここが勝ってるっていう、ぎりぎりのところで納得するみたいなところが女性にはあるかもしれませんね。働いてて、家事からも多少、自由で、子どもまでいるってなると、それこそ全てを手に入れてる感じがすごくずるい! みたいに人の感情を刺激するのかなっていうふうに思ったりはします。なんかやっぱり、ずるいっていうのが、日本では多くの事柄のキーワードになっている気はします。平等主義な教育を受けてきたので、一番のたたかれる原因って、「ずるい」みたいなところにあったりする。自分と同じくらいの実力の人が自分より多くを手にすると、一気に人のネガティブな感情を刺激して、良いところを真似しようという以前に、道徳的に批判しようという思考回路になっていますね。

 家事・育児を妻に丸投げしている男には、そのあたりはわからないと思います。

鈴木 多分、シェリル・サンドバーグも、やっぱりずるいって言われるからですよ。お金持ってるにしたって、私たちはできないのに、なんでそんなことをやるのみたいな。そしたらもう結局、社会的に発言できなくなってしまう。トランプの奥さんだったら誰も何とも思わない、いや、そういう女でしょみたいな。そういう女にはなりたくなくて、社会的に発言したり活躍しようと思ったら、髪振り乱して子育てをやんなきゃいけないっていう。確かにそういうのがありますよ。それは結構、やっぱり母親はつらいなって感じですよね。どうしていいか分かんないですよね。何をやってもたたかれる。 なんか、結局、これをやったら心証が悪いとか、これをやったら姑に批判されるとか、これをやったら世間がずるいってたたくとかっていうので消去していくと、選択肢はすごく狭まる、結局、自分が黙って睡眠時間を削って、家でも働くしかないみたいな。

 香港やシンガポールに知り合いがいますけど、どんな家庭にも住み込みのナニー(家政婦)がいて家事・育児を任せている。日本ではそれをすべて妻一人でやっていると説明すると、ものすごくびっくりされます。

鈴木 私は小5と小6だけ英国の小学校に行ってるんですけど、基本的にみんな、家にオペアかナニーがいたんですよ。オペアは無料でホームステイさせる代わりに、非常に安いお金で、子どもの面倒を見たり、家事の手伝いや留守番をしてくれる住み込みの留学生。ナニーは子育てのプロですね。私が割と仲良かった家は、お父さんが弁護士で確かに富裕層だったけど、ナニー1人にオペアが2人もいました。子どもが2人しかいないので大人の方がずっと多い。だから、お母さんがやることをカットしなきゃいけないっていうことはまず絶対ない。別にオペアたちが全員、言うことをきくわけじゃないけど、でもそこにいるということだけである程度のことは、大体、解決されるみたいな。少なくとも、大人が一人も家にいないという状況がないわけです。もちろん住宅環境というか、家が大きいから住み込みが三人もいて平気だというのはありますが。

 それはなかなかいい制度ですね。

鈴木 日本にはあまり定着していないですし、住み込みの人が家にいるということに抵抗がある人も多くてすぐには流行しない制度でしょうね。新聞社の先輩が、すごく高いお金で保育園に入れて、ベビーシッター、月に20万ぐらい払っててとか言う。しかもそれだけお金使っても、子どもは見てくれるけど、家事のフルカバーは別にしてくれるわけじゃないから、朝、5時に起きて、会社に来る前に旦那と子どものご飯を2食分ぐらい作ってから来る。こういう選択はあまりしたくないですよね。よっぽどなにか、ものすごく野望とか強い信念がなかったら。大抵の人はそんなにはないから、幸福になる選択肢と思いにくい。子供と仕事を両方持つことがこんなに大変そうなら、どちらかでいいやと思いがちになるわけです。

 やっぱり日本の子育てがおかしいんだと思います。「母親に過重な負担をかける方が子どもが幸福になる」みたいな話になっていますが、これはかんぜんな幻想で、そんな証拠(エビデンス)はどこにもありません。

鈴木 私はずっと子どもいないまま36年間きてますけど、どんどん周りに子どもはできている。そうすると、一緒にご飯も食べに行けなくなるし、いつも仕事をしてた人だったら仕事を頼めなくなるし、旅行ももちろんできなくなるけれど、そういう自己犠牲を美とするところが、すごくある気がします。別に子供がいようが、母親だけ旅行に行ったって本当はいいはずなのに。


すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない

 ずるいと言われないためには……。

鈴木 日本だと、自分の母親に頼むことだけしか認められないですね。せいぜい夫の母親。それだって、どちらかの実家がたまたま近所にあれば何とかなるけど、そうじゃなかったらみんな、孤独で寝る暇もないほど忙しい。だから本当は、おばあちゃんが面倒みてくれることこそが「ずるい」んですけどね。お金でアウトソーシングする方がフェアです。うちは母親死んでるから、子どもいたって、見てもらえないだろうなと思うと。

 たしかに、私の知り合いで共働きでうまくやっているのは、ほとんどが妻の実家が東京にあって、その近くに家を借りて、困ったときはいつでも頼めるというケースです。

子どもを産んでもロクなことはない

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対談】橘玲✕鈴木涼美 専業主婦と働くオンナ。どっちがしあわせ?

鈴木涼美 /橘玲

共働きで生涯現役を勧める『2億円と専業主婦』が話題の橘玲さん。女性の本音を語らせたら右に出る者のいない鈴木涼美さん。ふたりの異色対談が実現しました。鈴木涼美さんの新刊、『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』には、30人の女性...もっと読む

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mizloq 《リベラルな社会の原則は、「他人に迷惑をかけないのなら、自分のお金で何をしようとその人の勝手」ということ》のっけから読む気が失せた。「迷惑だ」と言いさえすれば他人の自由を抑制できる「リベラル」って何だよ| 5ヶ月前 replyretweetfavorite

shibaken_law 「リベラルな社会の原則は、「他人に迷惑をかけないのなら、自分のお金で何をしようとその人の勝手」ということです。日本の社会はなぜかこのシンプルな理屈を許容しないのですが、それが私にはものすごく不思議です。」 https://t.co/TCC8tbcVQW 5ヶ月前 replyretweetfavorite

G_Kaznd 生きづらい世の中だなぁ…。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

tw0lipswithfang このお二人が大好き。 https://t.co/NehEbcCfz6 5ヶ月前 replyretweetfavorite