忙しくて楽しい10代は、受験より価値がある
女にとって学歴も職歴も大したものではなくて、アクセサリー程度に集めるならいいが、過度にその効能を期待すると裏切られるし、それに必要な時間的あるいは金銭的投資を考えるとそれほどの見返りがあるものではない。アクセサリーとしてのブランド効果は例えば東大とエルメスのバーキンが同じくらいだとして、エルメスを買った方がまだ効率が良い。
ただ、ではそう悟った大人たちがまた中学生くらいからやり直せるとして、どうせ大して効力のない学歴ならばと中卒や高卒で切り上げるかというとそうでもない。大して役に立たないものでもやはり目の前に選択肢があるならば自ずとそこに向かってしまうし、中卒より高卒が、高卒より大卒が、三流大卒よりは一流大卒がなんとなく偉いような価値観は、バカな中学生にも多少なりとも植えつけられている。持っていても役には立たないが、持っていないとちょっと寂しい、そんなところである。
彼女が学歴にこだわらなかったのは、別に女性にとっての学歴の無意味さを早々に悟ったからでも、学歴を諦めるべき家庭環境にあったからでもない。ただ単に勉強や試験になんの魅力も感じなかったのと、学歴によって約束される将来は、今の楽しい日々を犠牲にしてまで欲しいものではなかったというだけだった。彼女は大学まで試験一つで行ける付属女子校の生徒だったにもかかわらず、その試験は受けずに高卒で派遣OLになった。
彼女の同級生で内部・外部受験含めて大学に進学せず浪人もしなかったのは、彼女を含めて5人もいない。一人はアメリカの語学学校に入り、一人は美容師の専門学校に進んだ。就職したのは彼女だけで、専門学校組に比べて随分成績の良かった彼女の進路に、教師や同級生たちはやや面食らっていたらしい。中学から高校に上がる時のテストで彼女は学年50番目までに入っていた。中学受験時に至っては10番目近くの超優秀な成績だった。
派遣として仕事を始めたのは食品メーカーで、基本的には営業補佐のような業務内容だった。もともとしっかり者で頭の良い彼女は、すぐに職場で頼りにされる立場となり、比較的誰とでも簡単に打ち解ける性格のせいか、同じ派遣の年上女性社員などからやっかまれたりいじめられたりすることもなく、1年以内には毎日のように飲み会を頼まれる立場となった。
そもそも彼女が内部進学の勉強程度すらもやる気が起きなかったのは、その社交性ゆえに常に遊びや食事の声がかかり、10代のうちから超多忙な日々を送っていたことや、そうやって人に必要とされているのに慣れていて、わざわざ大学卒の肩書きで武装しなくとも十分自分に価値を感じられていたことと無関係ではないように思う。とにかく彼女は高校生時代もOLになってからも顔が広く、盛り上げ役でもあり、また彼氏を切らせることもなかった。
「サッカー選手とか野球選手とばっかり飲み会開いてる子がいて、私は商社とか損保とかの方面に知り合いが多くて、日テレの受け付けやってる子は電博とかキー局とかに声かけられるし、ラルフローレンの店員の子は業界人と繋がってるから、いい感じに役割分担できてるんだよね」
彼女は自らのアフターファイブの仲間をそんなふうに形容し、実際にほとんどの週日は飲み会で、休日は飲み会で知り合った男とのデートで予定が詰まっており、女友達が食事に誘うにも日程調整に苦労するほどだった。社会人になって2年ほどして、高校時代から付き合っていた彼氏と別れ、証券会社の三つ年上の男と付き合っていたが、飲み会で好みの男がいれば一晩くらい泊まりに行くのはちゅうちょしない、肉食系女子でもあった。
仕事に対するプライドを、傷つける彼氏なんかいらない
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