第2回】自然に浴する野湯の醍醐味

日本には凄い温泉がいっぱいある!! 秋の行楽シーズン前にぜひ知っておいてほしい、日本の隠れた名湯を、TVチャンピオン全国温泉通選手権にて3連覇を達成した郡司勇さんが著したロングセラー『秘湯、珍湯、怪湯を行く!――温泉チャンピオン6000湯の軌跡』(角川oneテーマ21)より抜粋して紹介いたします。第2回は大自然を肌で感じられる野湯をご案内します。 ※本文中の成分総計は1リットルあたりの含有量、単位はミリグラム。また透明度はセンチで記述。各成分量も一リットルあたりの量。

鹿児島・山の湯

山や野原に流れっ放しの温泉がある

 昔、温泉はすべて野湯だった。ある窪みや川沿い、噴気口の周囲などに温泉が湧出して、それを利用してきたと思われる。そして源泉を仕切る枠や浴槽などが作られ、発展していったのであろう。
 私にとって究極の温泉とは先に記述した足元湧出温泉であるが、野湯もそれと同じ新鮮さだ。一度、新鮮で湯の湧出する流れを感じる官能的な良い湯に入ってしまうと、ほかの温泉に対しても同様の新鮮さを求めてしまう。そして最終的に行き着いた先は、源泉垂れ流しである野湯や、放置源泉、廃業宿、掘削直後の工事現場などだ。
 一切の加工をしていない湯は荒削りで極度に熱かったり、冷たかったり、析出物で周囲がコテコテであったり、またメタンガスが出て泡立ち生ビールのように湯の上に20センチほど泡が載っていたりする。これらは自然そのものなので、たいへん野趣に富んだものである。どれも匂いが強く、気体成分や泡が豊富に含まれている。ものによっては火がついたり、猛毒の硫化水素が出ていて倒れそうになったり、底なし沼であったり……と、危険なものもあるが、それも醍醐味の一つだ。

 その源泉に直接入浴するのが、私にとって非常に感動的な体験なのである。山道や沢を行き、はるばる歩き探して発見した湯を、苦労して溜めて子供用プールで入浴する時など、湯の良さに加え、達成感もあり満足感を倍増させてくれる。
 最近は有名温泉地の再訪だけでなく、これら源泉直接の野湯や垂れ流し温泉などを探索し入浴することにも力を入れている。ある掘削工事現場で入浴した湯は火が点き、さらに泡が大量に湧出し、匂いも強く良い湯であった。しかしこんな源泉でも数年後、大きな施設ができて入浴してみるとすっかり加工され、野性味を減殺した湯になっていることが多く残念である。あの源泉に直で入ったときが忘れられずに、また源泉調査や野湯に向かうのである。

 なかでももっとも豪快な野湯は、湯が多量に湧出して川になり海まで流れ去っているものである。北海道の知床半島にある「カムイワッカ湯の滝」や鹿児島の霧島山麓「山の城温泉」、秋田県の泥湯温泉の近くの「川原毛大湯滝」、北海道の登別「湯の川」などはみな温泉が湧出してそのまま川になっている。まさに温泉天国を現実化している最たる例だ。
 ほかに原始的な例は、温泉が使われなくなってしまったが湧出し続けているものである。まりもで有名な阿寒湖から流れ出ている水量の多い清冽な阿寒川には、昔開業していた「雄阿寒温泉跡」がある。建築はすでになく更地になっているが、敷地内から湯が湧出し川に向けて流れ去っていた。いくつかは高温で手も入れられないほどであったが、川と合流地点に即席の浴槽を造り寝転びながら入浴した記憶がある。

徒歩1時間ほどで出会える野湯

 自家用車で林道などの道路の末端まで行き少し歩くだけで行ける、体力的には初心者でも問題のない野湯を紹介しよう。徒歩は林道や山道となるが、1時間以内のものがほとんどである。

 秋田県の乳頭温泉は7軒の別源泉の宿が集まり、それぞれ古い造りで郷愁を感じるからか、近年東の人気トップとなっている。ちなみに西のトップは熊本県の黒川温泉だ。この乳頭温泉にも野湯がある。一番奥の「黒湯温泉」から乳頭山に登る登山道があり、黒湯から30分ほどの登りで沢に出るが、ここが「たつこの湯」である。

 途中の川原にも温泉が各所に湧出しているので、入浴スポットもほかにあると思われる。沢の対岸には噴気が多量に出ているところもあり、温泉の豊富な沢である。「たつこの湯」は澄んでいると青白濁しているが、底に黄色い泥が多量に沈殿しており入浴するとそれが舞い上がりまっ黄色になる。硫黄の析出物の多い単純硫黄泉と推測する。やや熱めの湯で硫黄分が泥のように沈殿していて、泥湯のような体験ができる。

 乳頭温泉の北東に位置する、スキー場で有名な岩手県の「安比」にも二つの野湯がある。「元安比温泉」と、「草の湯」である。元安比温泉は安比高原スキー場のシンボルともいえる「ホテル安比グランド」という黄色い建物のあるスキー場の奥に位置し、林道終点から歩いて行く。大きな堰堤を渡りしばらく登山道を歩き、尾根を越すと次の沢に沿って遡行してゆく。途中三回ほどの渡渉もあり、1時間あまりの軽ハイキングである。
 沢の横に広場のようになった土地があり、そこが元安比温泉だ。六月だというのに残雪が残り、水芭蕉の咲く別天地のような環境であった。四角い木枠で浴槽が整備されていて、快適に入浴できる。湯は綺麗な硫酸塩泉と思われ、硫黄分も少量含む。適温の良い湯であった。

 一方の草の湯は豪快だが、アプローチの良い温泉である。しかし温度が36度ほどなので、熱い湯にしっかりと入らないと気がすまない向きには不評であろう。元安比温泉の一本西側の沢にある。林道の開削が進み、終点から徒歩20分ほどで到着する。林道終点から歩道を進むが、高低差のない平坦な道で快適である。水芭蕉の咲く谷地状の沼地を過ぎると小さな沢を渡るが、この沢全体が「草の湯」であった。
 川全体が黄色い硫黄の析出物に覆われた沢で、到着してその全貌を目にすると感動的である。四カ所以上の源泉湧出地点より大量の硫黄泉が湧き、川となって流れていた。硫黄分の多い泉質で、湯としても申し分のない質だった。

 さて、野湯の多いところといえば北海道だが、難易度が高い。それらのなかでも比較的すぐ行ける温泉が「川又温泉」である。室蘭に近い幌別から北側の山間に入って行く。旧幌別炭鉱の跡地になるが、現在はすでに何も面影は無い。その林道終点より約800メートルの歩きとなるが、案内板もあるのでわかりやすい。もちろん湯も素晴らしい。透明ながらはっきりとした硫黄臭のある湯で、湯量が多く感動的である。足元から湧出して、隣の沢に小さな川となって溢れ出ている。木枠で深い浴槽が作ってあり、また脱衣場もある快適な野湯であった。

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秘湯、珍湯、怪湯を行く!

郡司勇

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