私は全然ゴリラじゃないのに

「モテる文体とはなにか?」を徹底的に分析する連載です。今回は、山極寿一さんの「身近に感じさせる構成」について解説します。書評ライター・三宅香帆さんの著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』から特別収録。


山極寿一の置換力


経験談というのもは、読み手がたいてい経験してそうなこと(旅行をする・バイトをするなど)か、読み手がなかなか経験できなさそうなこと(北朝鮮に旅行する・人体実験バイトをするなど)かの、2パターンに分かれます。

前者の場合は、読み手と共通点があるからまあいいとして、後者の場合は? 
見たことも聞いたこともない事物について、読み手はどうしたら…共感してくれるのでしょう。



〉昔、アフリカの山の上でゴリラのハミングを聞いたことがある。



うむ。初っ端だけからすべてを勝ち取ってしまったような文章。

こんな経験、普通なかなかないでしょう。「ドラミング」ならまだしも、「ハミング」を聞いたなんて。京都大学の総長が、アフリカの山の上で。

私だったら、もうこの書き出しだけで、満足してしまいそうです。あとは放っておいても、どうにでも話は転んでくれそうだから、続きを書くのがもったないくらい。それくらいパワフルで、強いインパクトのある書き出しだと思います。

しかし山極寿一先生はそれで飽き足りず、ゴリラに興味がない読み手までも、ゴリラの世界に巻き込もうとします(ちなみに、山極先生は、『ゴリラは語る』『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』『ゴリラの森、言葉の海』など、ゴリラの関連書をたくさん出されています)。

この文章を大まかに解体してみると、

①ゴリラのハミングを聞いた。
②ゴリラにとっての“ハミング”とはどんなものか? 
③私たちにとっての“ハミング”とはどんなものか?

この3ステップで構成されている。

このうち段落①は「普通の人はなかなか経験できないこと」です。

京都大学の総長が、実際にゴリラのハミングを聞いた。しかも、それはすごくのびやかな声で楽しそうだった。そんな経験談だけでも面白いでしょう。

だけど山極寿一先生の文章は、それだけで読み手を放っておかない。

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文芸オタク女子の バズる文章教室

三宅香帆

こんな書き方もありだったのか! 文芸オタク女子が暴露する、「モテる文章の秘密」がいっぱい。文章を書くという行為が、今よりもっと面白くなるはずです。

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