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読者の皆さんからご投稿をいただき、「そしてお姫様と王子様は幸せに暮らしましたとさ」こそが目指すべきゴールだという圧に人生潰されないように一緒に考えましょっていうこちらの連載、『ハッピーエンドに殺されない』。
今回ご投稿くださったのは、離婚して十数年「自由にそれなりに楽しく暮らしている」とおっしゃる方です。いばらの城から走り出て、離婚のあとの解放感。だけどあのときの傷痕を、どうしたらまた、癒せるか。さっそく考えていきましょう。
はじめまして。
私はシングルマザーです。
十数年前に前夫と離婚。前夫の浮気と浮気相手の妊娠が原因でした。
以来、一切連絡を断ち、血を吐く思いで仕事と子育てをしてきました。といっても子供も大きくなり、だいぶ余裕もできて自由にそれなりに楽しく暮らしています。
当時は世の中の男性すべて「この世からいなくなればいいのに」と思う程、嫌悪しました。
今はそこまで思いません。自分も含め男性も女性も色々な人がいるんだ、ということはもうわかります。
ただ、男性に好意を寄せられたり、プライベートなことを聞かれたりすることは吐き気がする程、嫌です。「彼女がどうした」とか「奥さんがどうだ」とか言う話を聞かされるのも気持ちが悪いです。
また女性同士でも「好きな芸能人は?」「好みのタイプは?」「〇〇さんて、イケメンだよね」といった会話になると、「下らない。馬鹿みたい。気持ち悪い」と思ってしまいます。
「彼氏は?」「再婚は?」なんて話はもってのほかです。
普段は適当にかわせるのですが、調子が悪かったり忙しかったりするとあからさまに態度にでるのでびっくりされる事が時々あります。そんな時は「ごめん、ちょっと今イライラしてて…」と言い訳しています。 上手く言えませんが「男性の存在を否定はしていないし、男性自体を嫌悪しているわけではない。男性と女性が共にあることも悪いと思っていない。恋愛や結婚も自由だと思う。ただ『それ』を自分に向けられるのがたまらなく嫌だ」という感じです。
感情というより自分の本質になっているので、自分はこのままで生きていこうと思っています。 理解して欲しいとも思いませんし、何よりそれをすべて説明するのは自分としても難しいです。ただ、もう少し楽になりたいな、と思うのです。
その状況になった瞬間、自分のからだから外側に向かって無数の武器が生み出され構えられる感覚に疲れてしまいます。
“武器”という表現、胸を打ちました。“自分のからだから外側に向かって生み出され構えられる無数の武器”。その武器こそが十数年間、心を守ってきてくれたのでしょうね。
初め、もっと辛い時にはきっと、“武器”より“敵”に苦しんだでしょう。「世の中の男性すべていなくなればいいのに」というくらい、誰も彼もを敵とみなして、とげとげの城にその身を隠して。
それはおそらく、なんていうか、「正確ではないけど安全な護身」のやり方だっただろうと思います。ご投稿でもおっしゃる通り、世の中の男性が全員ちんちんぶんぶん丸なのかというと全然んなこたない。「自分も含め男性も女性もいろんな人がいる」というのがより正確な現実認識ですよね。
だけど、より正確な現実認識を得るためには……「自分も含め男性も女性もいろんな人がいる」という一文をスマホ越しに読むだけじゃなくて、本当に本当に「自分も含め男性も女性もいろんな人がいる」ということを自分自身で経験するためには、外の世界に出る必要がある。実際に「いろんな人」と関わる必要がある。それはわくわくすることだけど、同時に、傷つくリスクを負うことでもある。だから傷を負った人は、傷が癒えるまでまず心を守るんだろうと思います。「男なんて……」「女なんて……」「日本なんて……」「人間なんて……」って、自分を傷つけた何かを大きい大きいカテゴリの箱に入れて、とげとげいばらのつたを絡めて、向こうからこっち来ないように遠ざけるんだと思います。
それで一生終える人もいます。
「男に傷つけられた、男なんてみんなクズ」
「女に傷つけられた、女なんてみんなクズ」
「人間に傷つけられた、人間なんてみんなクズ」
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