Kindleはきょうも来なかった

「キンドル、日本発売やめるってよ」なんてジョークが囁かれだすようになったamazonの『Kindle』。日本でサービスが開始されれば、電子書籍にまつわるほとんどの問題が解決されるかのように言われていますが……。フリー編集者、文筆家の仲俣暁生さんに、誰しもがKindleに抱いていた誤解、そしてKindle騒動から透けて見えた日本の電子書籍ビジネスの問題点を論じていただきました。

「来る」「来ない」「来る」「来ない」……。純情な乙女の花占いのように、日本での開始が待たれているアマゾンの電子書籍サービス「Kindle」。大手新聞の観測記事が乱れ飛び、そのたびに「こんどこそ」と言われるが、いつまでたっても主人公はやってこない。まるでベケットの前衛劇「ゴドーを待ちながら」を思わせる不条理な状況が、もう2年以上も続いている。

アマゾン自身も、9月7日に行ったタブレット端末「Kindle Fire」の新型の発表をはじめとするジェフ・ベゾス自身によるデモでは、映像や音楽、ゲームなどさまざまなサービスの提供を強調しており、もはや「電子書籍」は彼らが提供する多様なサービスのワンノブゼムにすぎない。登場時には画期的な技術だと言われた電子ペーパー(E-ink)も、新型端末「Kindle Paperwhite」の登場によって、「じつはこれまでのものは紙以下でした」と告白されたようなものだ。

海外から迫り来る「黒船」勢(最近ではGAFMAとかいうらしい)VS官民一体となった「国産」プラットフォーム勢の闘いになるかと当初は思われたが、国産側の一角を占めていたはずの楽天は、昨年にカナダのKoboを買収し、今年夏に電撃的にサービスを開始した。その一方で、パナソニックやソニーと共同ではじめていた「Raboo」を、来年3月で閉店することを決めている。「黒船」に対抗するために国内勢力を結集させるという(誰が書いたのかわからない)見取り図自体が、そもそも大きな間違いだったことが明らかになりつつある。いったい、これまでの日本での電子書籍騒動は、なんだったのだろうか。

市場予測が明らかにした国産サービスの本音

圧倒的に強い「黒船」(=グローバリゼーション)の脅威のもと、危機感をもった勢力が既存システムを内部から改革し、新しい時代が到来するという「幕末=維新」メタファーは、いまのところまったく機能していない。ここ数年の電子書籍騒動は、異文化間の出会いがどのような力学や構造をもつかという、文化人類学的な観点からふりかえったほうがいいのかもしれない。

電子書籍は現在の難局を一気に解決してくれる、外来の「救い主」だと思われている観がある。救い主が外からやってくるなら、自分たちは以前のまま、何も変わらなくていいからだ。

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