【休載の予告】
結城浩です。いつもご愛読ありがとうございます。
体調不良のため、2020年2月21日(金)の更新をお休みいたします。
申し訳ありません。
書籍紹介
中学生・高校生向けのやさしい数学を楽しい会話で学ぶシリーズです。
本書のテーマは《積分》。
数学や科学の世界で積分が使われるのはもちろんですが、 私たちの日常生活でも「刻々と変化する量の合計を考える」というのは極めて基本的なアイディアでしょう。
微分と積分は、三角関数に並んで数学の苦手意識を刺激するキーワードですが、 その本質は決して難しくありません。
本書では、速度と距離という日常的な例から始めて積分をじっくり味わっていきます。
数学ガールたちといっしょに学びましょう!
登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
《ピタゴラスの響き》
僕はユーリといっしょに、双倉図書館で開催されている《音楽と数学》というイベントに来ている(第283回参照)。
いまは《ピタゴラスの響き》コーナーで《ピタゴラス音階》を調べているところ。
音$C$から始めて、周波数を変えて音を作っていくのだが……
五個目の音$E$
音$A$の周波数を$3/2$倍してできる音の周波数は、 音$C$の周波数を何倍すればいいでしょうか(第283回参照)。 その答えは、 $$ 27/16 \times 3/2 = 3^4/2^5 = 81/32 = 2.53125 $$ という計算で得られますが、$81/32 > 2$なので、$1$オクターブ下げるためにさらに$2$で割ります。
音$C$の周波数を$81/64$倍した新しい音ができました。
$$ 81/64 = 1.265625 $$
新しくできた音を$E$と呼びます。
$C$と$G$の組、$G$と$D$の組、$D$と$A$の組、$A$と$E$の組は協和します。
私たちはこれで、$C$と$D$と$E$と$G$と$A$の五音を手に入れました。
六個目の音$B$
ユーリ「五個の音だけでも、曲って作れるんだね(第283回参照)」
僕「そうだね。ここまでで$3/2$倍を繰り返して五音が出来たから、同じことを続けていくんだろうけど……ユーリはそろそろ飽きてきたかな?」
ユーリ「やだなーおにいちゃんたらユーリはそんなにあきっぽくないしー」
僕「棒読みやめい……これが六個目の音だね」
僕とユーリは掲げられたパネルを見上げる。
六個目の音$B$
音$E$の周波数を$3/2$倍してできる音の周波数は、 音$C$の周波数を何倍すればいいでしょうか。 その答えは、 $$ 81/64 \times 3/2 = 3^5/2^7 = 243/128 = 1.8984375 $$ という計算で得られます。
$243/128 = 1.8984375 < 2$なので、初めの$C$音から$1$オクターブの範囲に入っています。 ですからさらに$2$で割る必要はありません。
音$C$の周波数を$243/128$倍した新しい音ができました。
新しくできた音を$B$と呼びます。
$C$と$G$の組、$G$と$D$の組、$D$と$A$の組、$A$と$E$の組、$E$と$B$の組は協和します。
私たちはこれで、$C$と$D$と$E$と$G$と$A$と$B$の六音を手に入れました。
ユーリ「飽きてこないけど、パターン見えてくるよね」
僕「パターンとは」
ユーリ「$3/2$倍して、$2$より大きくなったら$2$で割る。その繰り返し。パターンじゃん?」
僕「そうだね。規則的に繰り返して音を作っていく。《ピタゴラス音階》を作っていく」
ユーリ「次のパネルはこれ?」
七個目の音$F\#$
七個目の音$F\#$
音$B$の周波数を$3/2$倍してできる音の周波数は、 音$C$の周波数を何倍すればいいでしょうか。 その答えは、 $$ 243/128 \times 3/2 = 3^6/2^8 = 729/256 = 2.84765625 $$ という計算で得られます。
$729/256 = 2.84765625 > 2$なので、初めの$C$音から$1$オクターブ上より高い音になります。 ですからさらに$2$で割ります。
$$ 729/256 \times 1/2 = 3^6/2^9 = 729/512 = 1.423828125 $$
音$C$の周波数を$729/512$倍した新しい音ができました。
新しくできた音を$F\#$(エフシャープ)と呼びます。
$C$と$G$の組、$G$と$D$の組、$D$と$A$の組、$A$と$E$の組、$E$と$B$の組、$B$と$F\#$の組は協和します。
私たちはこれで、$C$と$D$と$E$と$F\#$と$G$と$A$と$B$の七音を手に入れました。
僕「これで七音」
ユーリ「ねーねー、ユーリ発見したかも。パターン!」
僕「お?」
ユーリ「パネルにしつこく『私たちはこれで……を手に入れました』って書いてあるじゃん? 作った順番が綺麗なパターンになってるよ!」
僕「どんなパターンだろう」
ユーリ「こんなの! 見て見て!」
作られていく音の順番(ユーリの視点)
ユーリ「ね? ね? 下から順番に作られるんじゃなくて、上がって下がるのを繰り返すんだよ。何てゆーの……ぐるぐる?」
僕「ああ、ほんとだね。こんな風に行ったり来たりにも見える。ええと、それはなぜかというと……」
作られていく音の順番(僕の視点)
ユーリ「次のパネル行こ! いよいよ八音目、到着だね!」
僕「おおい!」
八個目の音$C\#$
八個目の音$C\#$
音$F\#$の周波数を$3/2$倍してできる音の周波数は、 音$C$の周波数を何倍すればいいでしょうか。 その答えは、 $$ 729/256 \times 3/2 = 3^7/2^{10} = 2187/1024 = 2.1357421875 $$ という計算で得られます。
$2187/1024 = 2.1357421875 > 2$なので、初めの$C$音から$1$オクターブ上より高い音になります。 ですからさらに$2$で割ります。
$$ 2087/1024 \times 1/2 = 3^7/2^{11} = 2187/2048 = 1.06787109375 $$
音$C$の周波数を$2187/2048$倍した新しい音ができました。
新しくできた音を$C\#$と呼びます。
$C$と$G$の組、$G$と$D$の組、$D$と$A$の組、$A$と$E$の組、$E$と$B$の組、$B$と$F\#$の組、$F\#$と$C\#$の組は協和します。
私たちはこれで、$C$と$C\#$と$D$と$E$と$F\#$と$G$と$A$と$B$の八音を手に入れました。
ユーリ「ありり?」
ユーリは、けげんな顔をして指を折り始めた。
僕「どんどん次のパネルに行くんじゃないの?」
ユーリ「これおかしくない? $1$オクターブって$8$音だよね? ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド……ほら$8$音」
僕「そうだね。オクターブの名前の通り」
ユーリ「名前の通りって?」
テトラ「オクターブ(octave)の "oct-" というのは$8$を意味するからですよね、先輩!」
僕「うわびっくりした!」
ユーリ「テトラさん!」
登場人物紹介(追加)
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
僕「まるでミルカさんみたいに突然登場したね!」
テトラ「違いますよう! さっき二人を見つけて追いかけていたんですけど、急に走り出したりするので、なかなか追いつけなかっただけです。 人がいっぱいで……ところで、オクターブがどうしたんですか?」
ユーリ「あのね、$1$オクターブって$8$音だから、八個目の音を作ったら$1$オクターブの音がぜんぶできると思ったの。でも、$C\#$になっちゃった」
僕「ああ、それで数を数えてたんだ……テトラちゃんはもう《ピタゴラス音階》のパネルはぜんぶ見たの?」
テトラ「あっ、はい。そうです。なのでネタバレにならないように黙っていますねっ!」
テトラちゃんはそう言って『口にチャック』のジェスチャをする。
ユーリ「テトラさん黙っちゃった……えーっと、八個目で$C$にならないってことは、もっと進まないと$1$オクターブ上には行けないんだね。$8$音よりも多くなるんだ」
僕「$F\#$や$C\#$も出てきたからね……ああ、そうだよ。だって、ピアノの鍵盤を見ればわかる。$1$オクターブにあるキーは、$8$個じゃなくて$12$個だ。黒鍵があるから」
ユーリ「あー、そだね。そんじゃ、$3/2$倍を$12$回繰り返せばいーんだ!」
テトラ「あっ、それはっ……(チャック)」
僕「うん? いや、おかしいよ、ユーリ。それは違うはずだ」
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)