ビジネス書であり哲学書であり、かつ人間の姿勢について書かれた本

任天堂の元社長 岩田聡さんのことばをまとめた『岩田さん』を囲んで話す座談会は第三回。編集者的な目線で、これがなんの本なのかについて考えます。

「ズレ」に才能があらわれる

柿内 ぼくらが「苦労だったんじゃないか」と思う部分って、ある意味「ズレ」じゃないですか。

加藤 たしかにね。

柿内 才能ってそのズレにあらわれるのかなって思うんです。「すごいね」と言われても、「すごくないんだけどね」と思うこと。

永田 そうですね。

柿内 そこが才能が出るポイントなのかなと思っていて。

加藤 糸井さんとかもね、ずっといろんなこと考えてますよね。

永田 考えてます。

加藤 あれって普通できないじゃないですか。

永田 普通はできないところまで、本人に言わせれば普通に考えてるんですよね。あれは、おかしいです。

加藤 でも本人にとっては楽しいんですよね、きっとね。

永田 「なんでみんなやらないの?」ぐらいの(笑)。

柿内 それをたまに、苦労してやっている人がいるんですよ。

加藤 ああー。

柿内 それは才能とちょっと違うんですね。

永田 糸井がよくスポーツでやってることなんですけど、応援していない側からわざと応援をするんです。たとえばラグビーだと、日本対南アフリカで、南アフリカを応援してみるっていうことをやる。それ、やってみると、できないんですよ。せっかく応援してる自分の気持ちをまったく置いてやんなきゃいけないし。でも「それをやるとおもしろいよ」みたいなことを言う。

古賀 この人(柿内)ね、サッカーのワールドカップで、それやりますよ。

柿内 はい、オランダ応援してました。

加藤 なんのためにやってたの。

古賀 「日本代表はワールドカップで惨敗する」という内容の本をつくったから、その仮説がちゃんと成就するように(笑)。

柿内 あの本をつくる前からそうですよ。前に渋谷のスポーツバーで、オランダ対日本の試合でオランダを応援してたんです、ひとりで。

加藤 みんなと反対のところで叫ぶの?

柿内 そうです。よっしゃ!とか言って。へたしたらヤバい奴に殴られるかもしれないけど、先に「殴られるリスクがある」と思っておけば、殴られても納得できるじゃないですか。

永田 (笑)

古賀 納得の話かな?

加藤 なんのためにやってたの?

柿内 なんのためとかじゃないです。

一同 (笑)

柿内 単純にオランダのサッカーのほうがいいなぁと思って。

加藤 好きなサッカーだったのか。

柿内 ぼくはただのサッカーファンで、そこにナショナリズムとかはいらない。チャンピオンズリーグも毎年見てるんですけど、別にどこかのファンじゃないし、単純にいい試合が見たいだけなんですよ。でもワールドカップになるとなぜか必ず日本を応援しなきゃいけない感じになるから、それに対するちょっとカウンター的な感じでオランダを応援してみようかなって。

加藤 せめて家で見ればいいのに。なぜ渋谷のスポーツバーで。

柿内 それはアイディアです。

永田 アイディアなんだ。

柿内 編集者的視点です。

永田 (笑)

古賀 わかんねーなー!(笑)

柿内 一番違和感がある状況まで追い込んで、そのときの自分のメンタルを観察したい、ということですね。

永田 はぁー、変わってるわ(笑)。

柿内 人がどう認知するか知りたいだけなんです。そのためにはまず、自分の認知をちゃんと。

永田 ああ、そうか、自分がわかんないと、というのはありますね。

古賀 そこは編集者というよりは、作家に近いよね。

永田 そうだね。柿内さんは作家的なことには興味ないんですか。

柿内 ぜんぜんないです。自分自身には興味ないです。

加藤 でもちょっと作家性あるよね?

古賀 うん。

加藤 自分は「ない」と言い張っているけど(笑)

柿内 自分ではわかんないですね。

永田 でも、浅生鴨さんとか見てると、作家性ってなんだかよくわかんなくなるから。

加藤 あるんですか? ないんですか?

古賀 ある。あるんだけど、よそから請けた仕事に対しては、プロに徹して要望に応えるんですよね。

永田 鴨さんが小説書いてるときは、「発注された作家という機能を自分でやってる」みたいな。不思議ですね、そのへんは。

古賀 わかんないですね、あの人も。

「姿勢」についての本

永田 僕らの周りで忙しくおもしろくやってる人って、作家と編集と曖昧なところでやってる気がします。

加藤 それはみんなそうですよね。古賀さんもそうとう編集できる書き手ですよね。

古賀 うーん。

柿内 たしかに。

古賀 永田さんに聞いてみたいのですが、これまでもたくさん岩田さんと糸井さんの対談とか、宮本さんとの鼎談とかやったわけじゃないですか。それをウェブのコンテンツとしてつくる作業と、この本をつくる作業はぜんぜん違いました?

永田 うーん……一番大きかったのは、「慣れてないこと」でした。本をつくるというか、ビジネス書コーナーに並ぶような本をつくることに。

加藤 ああ、単純に。

永田 やったことがなかったので。

柿内 でも本はいっぱいつくってらっしゃるじゃないですか。

永田 糸井の言葉を一冊にまとめるとかはありますが、実は本をちゃんと、編集者的につくるというのは、ぼくはそんなにやったことがないことなんですよ。だから、古賀さんに目次のことを教えてもらいました。

古賀 そうでした(笑)。

加藤 目次?

永田 はい。つまり、目次というのは、これがどういう本だかを見せるものです、と。ぼくらが今までつくってきた本の目次って、「第一章‥‥8ページ、第二章‥‥35ページ」というようなものだったんですよ。でも、それじゃダメだ、と。人は目次をぱらぱら見て本のだいたいの内容を理解するんだから、と。だから『岩田さん』の目次がしっかりしてるのは、古賀さんのおかげなんです。


岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。(ほぼ日)

古賀 (笑)

永田 すごく誇らしい目次になりました。

古賀 あはは!

永田 そういうふうに不慣れなところがこの本には、けっこうあると思います。

古賀 でもこの本は「なんの本」というか、ビジネス書なのか、評伝みたいなスタンスのものなのか、立ち位置がどうとでも取れる本じゃないですか。その不思議さがおもしろいですよね。

加藤 ぼくは読んで、ビジネス書だと思ったんですけど、でもぜんぜん別のスタンスでもいいしね。

古賀 働く人として自分もこうなりたいと思うのももちろん自由だし、ひとりの人間としてこうありたいと思うこともあるだろうし。

加藤 哲学的な本としても読めるし。

古賀 いろんな読み方ができるなぁ。これはもとの素材は、「ほぼ日」で語ったこととか、「社長が訊く」で語ったことだと思うんですけど、ビジネスの難しい話をしてるわけじゃない。

永田 そうですね。

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岩田さん』を真ん中に置いて話そう。

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2019年7月30日に発売された書籍『岩田さん』。任天堂の元社長 岩田聡さんのことばをまとめた本作について、『嫌われる勇気』ライターの古賀史健さん、『漫画 君たちはどう生きるか』編集者の柿内芳文さん、『岩田さん』編集担当の永田泰大さん...もっと読む

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