編集者としての岩田さん
永田 岩田さんに編集者的な要素というのは、たしかにあったかもしれないと思いますね。自分の発想で何かを生み出すことももちろんたくさんあるんですけど、いわゆる作家的な生み出し方とは違うと思います。
加藤 Wiiの製作スタンスがまさにそうじゃないですか。「ゲームの市場をマニアの市場にしておいてはいけない。どうやったらお母さんに好きになってもらえるか」という視点は、すごく編集者っぽい。タイマーで電源が切れたほうがいいんじゃないかとかそういうことを考えるのは、編集の仕事ですよね。すごいことをやってるんだなと思いました。
永田 そうですね。
加藤 ぼく、ゲームが好きなんですけど、ゲーム好きってスペックを追うじゃないですか。でもそこで、Wiiという変わったものを出して、それがたくさんの人に受け入れられた。ぼく、ちょうど、Wiiが出た年にニューヨークに行ったんです。マンハッタンに任天堂ストアがあるのですが、もうね、すごかったんですよ。あそこはいろんな国の人がいるじゃないですか。そのいろんな家族連れが集まって、子どもたちがめちゃくちゃうれしそうに遊んでいて、親がそれをにこにこして見ているんです。ちょっと感動しましたよね。こんなことができるのかと思って。それで今回、『岩田さん』を読んだら、そこは完全に狙ってやっていたことがわかって。すごいな、と思いました。
柿内 会議の名前を付ける、みたいな話も編集者がやる仕事に近いなと思いました。
永田 ああ、部門横断の場を「車座」とか。
柿内 道をつくるというか、文脈をつくるというか。なんかすごくそういうことをやっているなという印象がありました。
加藤 たしかにネーミングで変わりますもんね、いろんな動きが。
永田 岩田さんは、「自分しかできないこと」を増やすのではじゃなくて、自分以外も通れる道をどんどん掘っていくみたいな仕事のしかたをしていたと思います。
柿内 少し話は戻りますが、岩田さんと宮本さんの関係って、おもしろいですね。
加藤 おもしろい。すごくよかった。
永田 この本をつくるために岩田さんが語られたものをたくさん読んだんですが、宮本さんについて語ってる量って、やっぱりものすごく多いんですよ。
柿内 そんなに大好きなんだ。
永田 すごく尊敬していたと思います。そこに、同業者としての視線も入るのがおもしろい。HAL研時代からずっと「この人はなんでいいものをつくるんだろう」「なんで自分のはウケないんだろう」という感じで宮本さんのことを見ていたそうですから。
加藤 糸井さんに対しても同じ感じだったんですか?
永田 ああ、いえ、糸井に関しては、また違う畑の憧れだったと思うんです。
加藤 そっか同じエリアじゃないからね。
古賀 宮本さんに対しては、ちょっと悔しさみたいなものもあるんだよね。
永田 そう。それは明るく認めていらっしゃいました。
加藤 なるほど。そうなんだ。
古賀 やっぱり同業で、岩田さんも、自分がつくるものに自信を持っていたので。
永田 あの2人の話は、ほんとうにおもしろいですね。宮本さんもほんとはもっと語れると思うんですよ、岩田さんのことを。でもやっぱり岩田さんが宮本さんを語れる量のほうが圧倒的に多いかなあ。
加藤 ずーっと見てたんですね。
永田 見てたと思います。なんだろう、あれは。憧れもあるし、少しの悔しさもあるし‥‥。やっぱり、「ほんとに知りたかった」というのが一番大きかったかもしれないですね。
加藤 「なんでこんなにすごいのか」
永田 「なんでこんなおもしろいものがつくれるのか」基本的に岩田さんは「なぜ」の人なので。
加藤 岩田さんって、本を出したがらない方だったんですか?
永田 はい、まったく。ぼくは一度はっきり本を出したいと言ってやんわり断られたんですけど、そのときおっしゃった文脈も憶えていて、「わたしが任天堂の社長として自分の考えを外に出すことにマイナスこそあれ、プラスはなにもない」というふうにおっしゃってました。
加藤 なるほどね。
永田 そのときはとくに任天堂がWiiとかで市場を席巻しているときで、勝ってる人が勝ってる理由を語ることになんのメリットがあるんだという、お見事な。
古賀 なるほど。
加藤 人格者ですね。
古賀 かっこいいなぁ。
永田 ぼくは、本の「はじめに」で、クドいほどこの本を出す動機や流れを書いたのですが、それはこの本が、そういうある種の後ろめたさを抱えながらつくった本だったので。だから、さっき柿内さんがおっしゃった「放出しないとそのまま終わっちゃう」というのは、勇気づけられる気がしました。
古賀 だから、この本に書いてあることって岩田さん本人は「本になる」と思って話していないじゃないですか。
永田 まったくないですね。
加藤 キリストも本になる予定はなかったよね、きっと(笑)。ただ話してた。
古賀 そういう、ほんとうに目の前の人に伝えたくて話していたこと、わかってほしくて話していたことが、こうやってまとまって本になっているのは、変な作為がないぶん、ダイレクトですよね。それはこの本の一番の魅力かなという気がします。
永田 あ——、なるほど。そうかもしれないです。
ご機嫌であるためにはなにが合理的か
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