<抵抗>
「やるべきこと」をやった後は、 悪あがきをしない。
急な流れの中で ケガをしないように。
長野刑務所に収監以降、自由な暮らしは奪われた。
時間も規律も、すべて刑務所が決めた通り。他人のルールに縛られて過ごさなければならない、人生初めての生活の始まりだった。
辛いといえば辛いのだけど、抵抗したって、どうにもならない。「まあ、しゃーない」という気持ちだった。
毎日朝起きて就寝時間まで、刑務所の決めたスケジュールを粛々とこなした。
よく自暴自棄になりませんでしたね? と聞かれたりするが、ヤケになっても、「しゃーない」のだ。人より少しだけ僕は、気持ちの整理がうまい方なのだろう。
悪あがきではなく対処に徹するというか、やるべきことをやったら、あとは流れに身を任せる。そして流れのなかでケガしないよう、できることを、黙々とやるだけだ。
気持ちの整理と、状況の受け入れが下手な人は、おおむね心を病んだり、いらないストレスを抱えるようだ。
僕はそんな苦しみを、わざわざ味わいたくない。
無駄なエネルギーをネガティブな方向に奪われないよう、「しゃーない」んだからと、修業のつもりで刑務所暮らしを過ごしていた。
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