第6話 世界の狭間

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。第6回はイーユン・リー『千年の祈り』から東洋と西洋の狭間について、そしていま文学が生まれる場所について考えます。

 朝食は毎日同じ時間にとりたい。たとえそれが旅先でも。学会で一週間ほど滞在していたニューヨークのホテルの朝食が始まるのは7時15分だ。とはいえ、ラティーノの担当者がときどきは寝坊して、5分ほど遅れることもある。それでも僕はソファに座って、じっとカウンターが開くのを待っている。

 出てくる食べ物はと言えば、大したことはない。シリアルやベーグル、そしてフルーツ、ヨーグルトで、温かいのは自分でいれたコーヒーや紅茶ぐらいか。でもときに氷点下になる朝、わざわざ近所のカフェまで歩いて行くのも面倒くさい。というわけで、便利に利用させてもらっていた。

 何日目だろうか、僕と友人が座っていたテーブルの席に、ジムと名乗る中国人の男性がスッと座ってきた。聞けば彼は昨日、僕らの発表を聞いていたという。どうもありがとう。そして何気なく会話が始まった。

ジムの身の上話

 そのときは、その会話が何日も続くとは思っていなかった。ただ旅先での軽い世間話、と思っていただけだ。けれども次の日もジムは気づけば僕のテーブルに座っている。時間をずらせばいいのに、こっちも半ば意地になって7時15分にはカウンター近くにいる。もちろん向こうもそれを察知していて、だから結局は捕まってしまう。

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世界文学の21世紀

都甲幸治

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。翻訳家として、研究...もっと読む

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mrnovember0708 「彼女は中国に戻ることなく、英語で中国を描き続ける。そしてジムは中国と米国の狭間にい続ける。どちらが上と言うこともない。ただ現代において、そうした場所から文学が生まれているというだけだ。」 https://t.co/Dn4u5U8T64 6ヶ月前 replyretweetfavorite

chogiyo 【オススメ】 異邦人であったことのある皆様へ 前半も中盤も後半もオススメ |都甲幸治|世界文学の21世紀 https://t.co/HhdVLlGeqF 9ヶ月前 replyretweetfavorite