四 「食べものの裏側」を知ると人生が変わる
◆生産者の存在を知る
農漁村の生産者たちは、人間の力ではコントロールできない自然に働きかけながら命の糧を得る生産活動を続けている。比較的安定した気候の西欧と異なり、台風や地震など荒ぶる自然と向き合ってきた日本の生産者は、技を磨き、知恵を絞り、自然を畏れ敬い、それらを伝承してきた。だから日本の一次産業のレベル、品質は世界有数である。読めない天候を相手に、自然と対話し、風や潮の流れを読み解きながら、受け継いだ技や知恵を駆使して仕事をしている姿を見ていると、ものすごくクリエイティブな仕事だと感じる。
宮崎駿氏がジブリ作品で描いた八百万の神の世界は、世界から高い評価を受けた。人間が自然を支配しようとしてきた西欧の一神教的世界観に対し、人間が自然と折り合いをつけ、共存しようとしてきた多神教的世界観に、欧米人からも共感が広まったのだ。
私は一二年前にふるさとの岩手に帰郷してから、多くの生産者たちと出会い、その多神教的世界観を現代の消費社会で一番体現しているのは、この人たちだと思った。ところがその生産者たちが日本では疲弊している。後継者不足、高齢化、離職化の嵐にさらされている。
この落差はどこから生まれているのだろうか。それは、現代社会で最も価値ある部分を一次産業が有しているのに、その部分がまったく世の中に伝わっていないからではないだろうか。その価値が正確に伝われば、私の中で起こったような変化が同じように起きるのではないだろうか。
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