福本千夏
猫舌の恋バナ
「若い乙女たちと恋バナをすることもあり、そんなときね。教室の空気がふあっとゆるむ、あの切ない淡い記憶が思い出される。若い子の特権」 と福本さん。
今回は、福本さんが高校生の頃の恋のお話です。思わずときめく、アオハルなエピソードです。
「ちいさん、今まで食したもののべストワンってなんですか?」
これは、これまで出会ったヘルパーさんから結構な確率で聞かれる質問だ。食べることが困難な私の姿を見て、興味を持つのだろう。
私の食のベストワンは高校生の時、軽音楽部の帰りに紙コップで一口飲んだホットチョコレートだ。私が口をすぼめ、熱い飲み物をすすることができないことを知っている人は、なぜホットチョコ?と思うだろうが。
時は四十年前、高校時代にさかのぼる。オルガンとビートルズと、そしてなにより同級生のミッチーが好きだった私は、彼が作ったコピーバンドに加わった。
十年間のお年玉で、キーボードを買って学校に持って行ったあの日。千人の全校生徒の前で、「私は彼が好きです」と暗黙の告白をしたようなものだと、今になって気づく。だからか……彼は私を一番の女友達として、高校三年間寄り添ってくれた。
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「障害マストゴーオン!」が本になりました。連載からさらにパワーアップした、魂込もった千夏節、ぜひお読みください。
この連載について
福本千夏
脳性まひ者の福本千夏さん。
50歳にして就職して、さまざまな健常者と関わる中で、感じた溝を語ります。
著者プロフィール
福本千夏(ふくもと ちなつ)
1962年生まれ。動物界ヒト科、脳性まひアテトーゼ型。寝ている間以外、どこかしらの筋肉を緊張させている。手足の動きとハスキー漏れボイスが独特。好奇心と人に恵まれ、幼稚園から大学まで普通校で学ぶ。
独り暮らし、結婚、子育てをし、平凡で幸せな時間をすごす。2008年、夫(高校教師)が2年間のがんとの共生後死亡。専業主婦を廃業。絶望の中、息子にいのちの根っこを支えられ続け、2012年、地震などで被災した障害者を支援する団体「ゆめ風基金」に入職。現在、人間修行中。