※ 『週刊ダイヤモンド』2019年6月15日号より転載(肩書・数値などは掲載当時)
通称、HRP──。某大手損害保険会社が社内用語として使っている言葉だ。その意味するところは、ハッピーリタイアメントプラン。つまり、HRPとは、その頭文字を並べた言葉というわけだ。
「損保代理店を取り巻く環境は、今まさに転換期にある」
国内の損保事業に携わる多くの関係者たちは、そう口々に言う。HRPを含め、その理由について歴史を踏まえて見ていこう。
1970年代のモータリゼーションを契機に、今や自動車保険は社会インフラとなった。損保の売上高に相当する正味収入保険料8兆3806億円のうち、自動車保険が約半分の4兆1102億円を占めることからも明らかだ(2017年度)。そうした中、自動車ディーラーと並んで自動車保険を販売する主要チャネルが、損保代理店を専業とする「プロ代理店」だ。
かつて各損保がほぼ同種の自動車保険を販売していた時代は、販売チャネルの拡大こそが、トップライン競争に勝つ最大の手段だった。いきおい、全国規模で損保代理店数は増え続け、90年代半ばには45万店を超えた。
併せて、プロ代理店も増えた。その中には、“一人親方”と呼ばれる零細代理店も数多く存在した。契約の処理など事務作業を損保社員が代行し、店主に営業に専念してもらって増収に努めたわけだ。
だが、こうした蜜月関係も96年の保険自由化によって変わった。商品や保険料の自由化により損保間の競争が激化、代理店の事務処理を担う損保社員のコスト負担が問題となってきたからだ。
その解決策として、2000年代前半に代理店同士の合併が行われ、集約化が進んだ。また、損保は小規模代理店の「受け皿」として直資代理店を立ち上げ、これまた代理店の集約化にかじを切った。
だが、プロ代理店の店主は小さいとはいえ一国一城のあるじ。合併しても意見が合わず、離散するケースが後を絶たなかった。直資代理店に対しては、取り込まれることに嫌悪感を示す代理店主がいまだ少なくない。故に、プロ代理店の数は3万5000店前後で横ばいを続けているのが現状だ。
とはいえ、代理店主の高齢化は待ったなしの状況だ。60歳以上の店主が4割を超え、50代が3割強。後継者育成も順調とは言い難い。
05年に発覚した不払い問題以降、数字を上げても「品質」が伴わない代理店には、厳しい目が向けられるようになった。さらに金融当局が掲げる「顧客本位の業務運営」を行うには、体制整備などのコスト負担が大きい。だが、膨大な数の小規模代理店がひしめく現状では、「10年先を見通せない……」というのが偽らざる実態だ。
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