※ 『週刊ダイヤモンド』2019年6月15日号より転載(肩書・数値などは掲載当時)
写真提供:朝日新聞社
過去最大の1.6兆円──。18年夏に相次いで発生した台風などの自然災害によって、損害保険会社が支払った保険金の総額だ。
これは、中国・四国地方を中心とした7月豪雨や、台風21号、24号などによる「風水害」に限った金額。大阪府北部を震源とする地震や、最大震度7を記録した同9月の北海道胆振東部地震を含めると、さらに規模は膨らむ。
五つの災害のどれもが、歴代の支払保険金の総額において10本の指に入るほど規模の大きい被害をもたらすという、まさに「異常事態」が18年夏に起こったわけで、当然ながら損保各社の財務基盤にも大きな爪痕を残した(下表参照)。
2018年度の損保各社の決算は、厳しい内容が予想されたものの、いざふたを開けてみると新聞報道では、「2グループが増益」「増益に転換」といった文字がずらりと並んだ。
あれだけの大きな災害がありながら、あたかも平常運転だったかのように映ってしまうが、一体なぜそうなったのか。
それは、新聞報道が業績の最終利益として、「純利益」だけを伝えているからだ。
北海道胆振東部地震では、道内全域で約295万戸に及ぶ大規模な停電が発生した。Photo:JIJI
そもそも損保は、災害発生時の多額の保険金支払いに備えて「異常危険準備金」というお金を積み立てている。準備金を取り崩した場合は、その年の“収入”として計上することができる。
そのため、18年度は台風などの災害によって保険金の支払いが膨らんだものの、同準備金を大きく取り崩し、最終利益に与える影響を小さくしたことで、純利益ベースでは前期比で「増益」という結果になったわけだ。
会計上、最終利益への影響が少なかったのであれば、特段問題ないのではないかと思うかもしれないが、それは違う。
特に大手損保の場合は、経営指標として純利益よりも、配当など株主還元の原資となる「修正利益」を重視し、株主や機関投資家たちにこれまで盛んにアピールしてきた。
その修正利益ベースでは、実は最大手の東京海上ホールディングスをはじめとして軒並み減益決算になっており、それによって一部の損保では、今夏の社員賞与が大きく目減りしているのだ。
純利益は増益であっても、修正利益や社員に対する処遇を見れば、実態は明らかに減益であり、一連の報道がいかにミスリードしているかがよく分かる。
大手損保の心もとない災害準備金
18年度決算をめぐっては、先述した異常危険準備金にも注目が集まった。