野蛮人の読書術

第5回(最終回)】東京大学EMPが受講生に叩き込む、究極の「教養・智慧」とは?

最終回のテーマは、話題の「東京大学EMP」。世界的にも前例のない、超ハイレベルなこのリーダー養成プログラムが受講生に叩き込む「教養・智慧」とは? 修了生でもある田村さんが、EMPの勘どころと、膨大な読書課題のこなしかたをご紹介します。※記事の最後に「お知らせ」があります。ぜひチェックを!

 私の今の読書習慣を最終的に形作ってくれたのが、東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大EMP)である。

 東大EMPは、とにかく課題図書をたくさん読まされるプログラムだ。受講期間は半年。私はこの期間で、一部かじったものを含めると200冊ほど、あらゆる分野の本の中身を頭に叩き込んだ。ノウハウ本のような短時間で読めるものはなく、真剣に取り組まないと歯が立たない、手ごわい文献がほとんどだった。

「課題図書リストを手に入れただけで、東大EMPに来た目的の半分は達成できた」

 読むモチベーションや読書習慣を叩きこまれたこともむろん有難かったが、東大EMPで何が一番すばらしかったかと問われれば、「読むべき本のキュレーション」だと私は答える。

 それぞれの専門分野で最高の叡智を誇る第一人者みずから、門外漢でも読みこなせる「本当に読む価値のある本」を受講生のために厳選してくれる—。巷に本があふれているこの時代、これほど贅沢なことはない。この課題図書リストを手に入れただけでEMPに来た目的の半分は達成できた、という受講生も数名いたくらいだ。私も同感である。

 なぜ東大EMPの課題図書リストはずばぬけて質が高いのだろうか? それはこのプログラムの目的が、これからの時代を生き抜く人材育成にあるからだ。

究極のリーダー養成機関、東大EMP

 東大EMPは、ビジネススクール(経営大学院)でもなければ高級カルチャーセンターでもない。その設立の経緯は実に興味深い。早稲田大学・慶應義塾大学・一橋大学が次々とビジネススクールを立ち上げるなか、日本の大学序列の最高峰に位置する東大にも、産業界からビジネススクール設置の要望が相次いでいた。しかし東大総長の小宮山隆氏、総長アドバイザーの横山禎徳氏、理事の山田與一氏ら(肩書はいずれも当時)には、先行する早・慶・一橋の後追いの単なるビジネススクールを作るつもりは毛頭なかった。

 彼らが構想したのは、「文理にまたがる圧倒的な知的財産」という東大の優位を活かした、より先端を行くプログラムである。東大の一部門というより、すべての学部・部門にまたがる自由度の高い「オーバーレイ」組織としてEMP室を発足させ、学部・研究所を横断した幅広い分野の教授が参画するプログラムとしたのである。

 東大EMPの目指すもの、それは、価値観の多極化が進行するグローバル時代をリードするのに不可欠な「課題設定能力」と「課題解決能力」を持つ、幅広い教養と智慧をそなえた全人格的能力の養成である。

 ただし、EMPが受講生に叩きこもうとしている「教養・智慧(Deep Insight and Wisdom)」は、世間でイメージされるような高踏的な一般教養や、旧制高校のような基礎中心の教養とは、基本的に異なる。このプログラムが追求するのは、あくまでも実戦的な課題設定・課題解決能力の源泉としての、「教養・智慧」である。

 特に重視するのは、物事の判断を誤らないための、現代人必携の能力であるサイエンス・リテラシーの獲得だ。

 世界的な凋落がよく指摘される東大だが、それはおもに社会科学系が足を引っ張っているから。自然科学の研究では、巨額の国費が投入されている東大はいまなお世界トップレベルである。

 EMPで私は、この東大が誇る自然科学系の最先端の知見に触れ、それを最も効果的に学べる文献を紹介してもらい、その上でその道の最高の専門家たちと議論を交わすことができた。良書を読むことと、それに基づいた議論ができたことで、読書で得た知識は私の記憶に深く定着している。

「未解決課題」のみを扱う、超ハイレベル講義

 東大EMP講義の大きな特徴は、講師も受講生も「未知の事だけを語り、すでにわかっていることは語らない」という点だ。あらゆる分野の専門家に「まだ解決していない先進的課題」について講義させ、受講生は事前に提示された資料や文献を読みこんだ上で、「すでに分かっていることはすべて頭に入れた」前提で、議論して解決を目指す。

 すでにリーダーとしての実績と成功体験のある人物を受講生とする、という建て付けなので、ビジネススクールにありがちな「リーダーシップ論」もEMPの講義では扱われない。

 EMPではいわゆる「理工系」「人文系」という伝統的な枠組みから脱し、より統合的な視点から自由で新鮮な議論をする。既存の学問領域の間に位置するプログラムなので、通常の大学や大学院ではあまり語られない重要課題に目を向け、議論を展開する。

 受講生は、多種多様な講義の内容を、バラバラの知識として吸収するのではない。各講義群どうしの連関や連鎖に次第に気づくことによって、偏らず一貫性のある思考力が鍛錬される。講義では、あらかじめ体系化されたテーマを一方的に教授されるのではない。受講生は、各自がすでに持っている枠組みに基づいて、自ら進んで各講義の内容を体系化することを求められるのだ。

 EMPに参画する講師陣は、東大の10学部、15の大学院研究科、11の研究所、15のセンターに属する約4000名の常勤教員の中から選抜された、100名強のトップ研究者たち。彼らが受講生を迎え撃つ。

 受講生も多彩である。皆、実務経験豊富で、個人としても組織の中でも、人生の酸いも辛いも経験してきた40代である。半年間の学費は600万円。エグゼクティブ・プログラムでは世界最高水準の学費である。この高額な学費を払えるだけの実績を残している、起業家、オーナー経営者、大企業の幹部、建築家、中央官僚、地方自治体職員、弁護士、医師そして元政治家である。

 講師に敬意は払うが、受講生も各々の分野で実績ある強者ぞろいなので、講師と対等な立場でハイレベルな議論を行う。私のように「貴重な本業の時間を犠牲にしたうえに大金を投資して通っているのだから、ヘボな授業をしたら承知しないぞ」と腹の底に闘争心を抱いている人も少なくなかった。多彩なパースペクティブがぶつかり合うことにより、EMPは受講生のみならず講師陣にとっても大いに学びある場所になる。

半年で200冊を読み倒すために、私が実践したこと

 受講期間の半年間で、1コマ1時間45分の講義が計182コマ。受講生は基本的に在職である。毎週末の金曜日と土曜日に受講となる。この2日間でそれぞれ4コマずつ消化していくわけだが、1コマあたり必読文献が1冊、参考文献が1冊という具合なので、受講期間を通じて200冊~300冊ほど読み倒す計算になる。

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野蛮人の読書術

田村耕太郎

「現代を生き抜く術」、それは読書である――。国会議員、ビジネスマン、研究者など、さまざまな顔を持ちながら世界の第一線で戦い続けてきた著者による、多忙(かつ怠惰)なビジネスパーソンのための読書術指南。(トップページ著者写真:疋田千里)

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コメント

uribo2005 田村耕太郎が語る東大EMPすんごい。 https://t.co/EUXwuadESo 4年以上前 replyretweetfavorite

HorizonEternity  ・究極のリーダー養成機関、東大EMP  ・「未解決課題」のみを扱う、超ハイレベル講義  4年以上前 replyretweetfavorite

kantoku_kun 内容について議論できるアウトプットの「場」があることの方が、本を読むことよりも重要なのかも。 4年以上前 replyretweetfavorite

konpyu まず学費に驚きます 4年以上前 replyretweetfavorite