親と自分は違う人間なんだ、と考えてみる

ここまでは、社会に対して「声をあげよう!」と思ったときに陥りがちな「つまずきポイント」を3つ取り上げてきました。今回は3つのポイントを踏まえて、対話する基礎体力をつける方法をご紹介します。まずは、「いろんな大人に会う」ことと、「大学に行ってみる」こと。(『みんなの「わがまま」入門』より)

いろんな大人に会う

1時間目、2時間目でお話したことは、とにかく「自分とは、考え方も生き方もまったく違う人々がいる」ということと、「正解がある問題ばかりではない」ということです。

そのなかで周りの人の「わがまま」と向き合い対話をしていくために、まず「人の話を聞く」土台をつくるということと、「人に話をする」土台をつくるということ、その「人」にはいろいろな背景や生きてきた経緯があるのをよく理解すること、という話をしてみました。そのためにはイベントなどを通じて多様な人と接するのが重要だ、というのが、3時間目のまとめです。

ただ、イベントというとパリピ感が強くなってしまう側面は否めません。そういうものが内心楽しかったとしても、「あいつそういうの好きなんだ、ふーん」と言われるのがシャクだ、という人もいるでしょう。

そうした方は、ぜひ、学校でも家庭でもない第三の場所をつくってください。塾や予備校、スポーツクラブといった場所がそうなっている人もいるんじゃないでしょうか。ただ、「そもそもそんなに都会に住んでないし、うち田舎だし」と思っている人もやはり多いでしょう。そういう人向けのテクニックも、これから紹介していきます。これほど多くの人がスマートフォンを持っている状況であれば、インターネットの趣味コミュニティなどもよいのかもしれませんが、怖いと感じる人も多いでしょうから……。

すでに居場所を持っている人も、持っていない人も、新しい居場所づくりにチャレンジしてみましょう。探すコツとしては、「自分と『違う』人が多いかどうか」、また「大人数すぎないかどうか」です。性別、年齢、職業、国籍などなど、違う人が多ければ多いほどいい、という言い方をいったんしておきます。

もちろん、自分と年齢も職業も違う人と会うのはリスクも大きいし、多分みなさんの周りの大人の方、たとえば学校の先生も保護者の方も嫌がるでしょうから、なるべく安全な探し方をここで一緒に考えてみます。

たとえば英会話教室にしろ、ピアノ教室やカルチャースクールにしろ、子ども向けだったり学生の受験対策を目的としたような自分と似た人が集まるところではなく、多くの年齢の人が集うような教室を探してみましょう。公民館や区役所の貼り紙やフライヤーといったものを参考にしてみてください。お家が町内会に入っているなら、たびたび家に回ってくる回覧板にそういうお知らせがあったりします。まあ、一見「ダサい」デザインのものも多くて、「こんなの若い人来ないよ……」と思うかもしれませんけれども、むしろ、それがここではけっこう重要だったりします。

かりに町内会のお知らせやビラを見て、何かの催しに関心を持ったとして、そんなところに行ってもだれとも話せないよ、と思う人も多いかもしれません。ただ、こういう場所はベタにお年寄りや年長の人が多いので、若い人は歓迎され、必要以上にかわいがられる傾向があります(それ自体あまりいいことではないかもしれませんが、みなさんの感じる参加へのハードルは減るかもしれません)。

ここで何を学んでほしいかというと、「自分とは異なる人の存在」と「親とは異なる大人の考え方」です。「家族」みたいなものから、一旦外れてみることもけっこう大切です。

いろんな学生さんや生徒さんに聞いてみると、彼らがよく言うのは、「親と違うとなんか不安」ということです。そりゃそうだ。幼い頃から生活をともにしてきて、働いて自分の衣食住を支えてくれる存在でもあるんだから、その人たちと価値観が同じでないと不安というか、「正しく生きてきた」感じが得られないのも、またたしかでしょう。

親御さんや保護者の方を好きなことはすごくいいことですが、その一方で親は自分とはちょっと違う部分がある人間なんだ、と考えてみるのもいいと思います。たとえば、就職活動にしても、親御さんに相談する人はきっと多いでしょう。それは全然否定すべきことではないのですが、親とみなさんとは、生きている社会が全然違うんですよね。まず世代が全然違うから、社会が学校に期待している機能も違うし、仕事のイメージも大きく違うはずなんです。

大学の学生さんに、就職先を決めるとき、だれに相談した?と聞くと、多くの人は「親」と言います。親と子の間にそれほど意見のくい違いがない家族関係がある。社会学者の土井隆義さんが明らかにしているのですが、中高生の親が「子どもと意見が合わない」と感じる10項目をあげる調査で、1982年以降は「電話のかけかた」以外の全項目の割合が下がったといいます(朝日新聞、2018年12月22日)。これを土井さんは「親や教師が『共通の敵』ではなくなった」とまとめていますが、親や教師が「敵」だった時代があったことに、むしろこの本を読んでいる多くのみなさんは違和感があることでしょう。

もっとも身近で仕事をしている大人なのですから、就職するときに親の意見を参考にするのは当たり前ですよね。ただ、親や保護者の世代だと、メーカーや日系企業に人気や勢いがあったかもしれないけれど、お子さんの時代はIT企業や外資系企業のほうがよい労働環境を提供してくれるかもしれない。そもそも仕事に対する考え方が違って、早くに仕事をやめて社会貢献をしたり、転職や副業をする生き方だって当たり前だったりする。たとえ生まれたときから一緒に過ごしていても、生きてきた社会環境の違いはとても大きいです。一緒に暮らしていて、年長者で、生活を支えてくれていて、信頼できる親でも、たくさんの違いが見えてくるはずです。それは、政治や社会に対する考え方についても同じことです。

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みんなの「わがまま」入門

富永京子

「権利を主張する」は自己中? 言っても何も変わらない? デモや政治への違和感から、校則や仕事へのモヤモヤまで、意見を言い、行動することへの「抵抗感」を、社会学の研究をもとにひもといていく、中高生に向けた5つの講義。身近な「わがまま...もっと読む

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sayusha 【連載】『みんなの「わがまま」入門』公開されました🧁 意見をいい、他人の意見を聞くために、日頃から気をつけられることについて考えます。 https://t.co/rhfVg6dHQu 9ヶ月前 replyretweetfavorite

uni_uni222 とにかく「自分とは、考え方も生き方もまったく違う人々がいる」ということと、「正解がある問題ばかりではない」ということ 9ヶ月前 replyretweetfavorite