第3回の冒頭で、将棋と他のゲームとの違いは「取った駒の再利用」と書きましたね。それにより、将棋は「拡散のゲーム」になりました。
チェスや囲碁のようなゲームは、終盤になるにつれて選択肢が収束していきます。チェスは駒が減る一方ですし、囲碁は打つ場所が減る一方です。ところが将棋は駒を再利用できるので選択肢が広がっていくのです。
選択肢が多いぶん考える要素は増えていき、それによってミスも出やすく、プロ同士でも終盤に逆転が起きやすくなります。逆転は将棋の華で、藤井聡太七段の終盤の逆転勝ちにファンは魅了されるのです。
人が相手だと、棒銀戦法が通用しない理由
さて、そろそろ人と指せる段階に来ていると前回お伝えしました。
その際に「8枚落ちの次は6枚落ちですが、とたんに棒銀が通用しなくなります」と書きましたが、まずはこのことを解説します。
6枚落ちは相手に銀が2枚増えます。銀も基本的には守備の駒なので、相手の守りがグッと堅くなります。
【図1】
アプリの「ひよこ」であれば、ひよこのレベルが高くても、棒銀で攻め込めるはずです。 ところが人と指すと、棒銀が通用しなくなります。どういうことか見ていきましょう。
【図2】
相手が歩を進めたところです。このあと、こちらは持ち駒の歩を使って銀を前進させるのがいままで解説した攻めです。
【図2-1】
相手は歩を取ってくるので、銀で歩を取り返して前進させます。
【図2-2】
ここで相手が持ち駒の歩を打った時に8枚落ちとの違いがでてきます。
【図2-3】
相手の歩の後ろに銀があると、守りが堅い感じがするでしょう。 実際、こちらの銀で歩を取っても、相手の銀で取られて、
【図2-4】
銀を飛車で取っても、金で取られて駒損となって大失敗です。
これが「6枚落ちでとたんに棒銀が通用しなくなる」意味です。
棒銀戦法は万能ではなく、うまく受けられると突破できないこともあります。
これは将棋におけるどんな戦法もそうで、絶対に勝てる戦法があれば将棋というゲームがつまらなくなってしまいます。
ではどうすればいいのでしょうか? ここでこの連載で初めて桂と香にスポットを当てます。
価値の高い駒と交換してこそ輝くのが桂と香
桂と香は、駒の価値でいくとほぼ同じです。
そして飛車・角・金・銀より下で歩より上、というポジションです。つまり、桂を金と交換すれば「駒得」となり成功です。
ということで桂と香の役割は、飛車・角・金・銀と交換して「駒得」することです。価値の高い駒と交換してこそ輝くのが桂と香、と覚えておいてください。
また桂と香は「成る」と金と同じ動きになります。「成る」ことで金と同じ動きを手に入れれば、相手の価値の高い駒との交換も容易になるでしょう。
そして桂や香の犠牲によって手にいれた相手の金や銀は、盤上のどこにでも打てる持ち駒となり、攻めや守りに活躍するのです。
さて先ほどの図を再掲します。
【図2(再掲)】
ここから桂と香を使って攻め込みます。
前段階として、香の前の歩を2つ前に進めましょう。
【図3】
飛車の時と一緒で、香も目の前の歩を動かすことで働いてきます。
いきなり歩と相対させるのはNG
ただ飛車と違って香の場合、いきなり歩と歩を相対させるとうまくいきません。
相対させるとどうなるか見てみましょう。
【図3−1】
歩を相対させると、相手も歩を取ってきます。香で取り返して、
【図3-2】
このまま進めるかと思いきや、香の前に歩が打たれると、
【図3-3】
飛車と違って後ろに下がれない香は行き場を失ってしまいました。香で歩を取っても銀で取り返されてしまいます。香を歩と交換するのでは駒損で失敗です。
ということで、最初に戻ります。香の前の歩を2つ進めたところです(図3)。ここから相手は左側の歩を進めました。
【図4】
ここで援軍を送ります。 ここから桂を2回前に進めるのです。まず1回、
【図5】
そして、もう1回。
【図6】
桂はあっという間に前線へ進出できます。これが桂の特徴です。
そして自分の番になったら香の前の歩を歩と相対させます。
【図7】
先ほどと同様、相手は歩を取ってくるので、こちらも香で取り返します。
香の前に歩を打たれたら、
【図8】
香で取って成ります。
【図9】
(杏=成香)
すると今度は銀で取られたとしても桂で取れるのがお分かりでしょうか。
【図10】
(圭=成桂)
香と銀の交換で「駒得」のうえ、桂を「成る」こともできます。
中盤の目的である「駒得」と「成る」を一気に達成しました。
さらに自分の手番になったら、成った桂を横に動かして歩を取ります。
【図11】
(圭=成桂)
これを金に取られたら飛車で取って成ります。
【図12】
桂と金を交換して駒得です。
再び、中盤の目的である「駒得」と「成る」を一気に達成しました。
桂と香が忠実に役割をこなした結果、中盤の目的を達成できたのです。
この概念を理解できれば、人との6枚落ちでも攻め込めるはずです。
相手に銀という守りが増えたので、飛車と角と銀に加え、桂と香を使うという理屈です。
将棋の格言で「攻めは飛角銀桂」というものがあります。この4枚を使えば守りを突破できるというもの。この4枚に香まで加われば、攻撃態勢としてはバッチリですね。
ハンデなしの「平手」で棒銀戦法をやってみよう
さて、ここからはいよいよハンデなしの「平手」の話にうつります。まずは棒銀戦法について解説していきます。棒銀戦法は万能ではないにしろ、将棋のキホンです。まず棒銀戦法で将棋の「攻撃」について学ぶことでキホンを覚えられるのです。
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