もしあの誤植が本当にあったら「築5分駅から一年」

昨年11月、KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」とnoteが開催した「#一駅ぶんのおどろき」投稿コンテスト。通勤や通学の合間にスマホで手軽に読めて、おどろきや発見があるショートストーリーがたくさん集まりました。本連載では、このコンテストで受賞されたクリエイター10人の作品を順にお届けしていきます。
本日は、優秀作品に選ばれたむつぎはじめさんの「築5分駅から一年」です。

築5分駅から一年/むつぎはじめ

『有限会社 べねとろんげる不動産』という大変可読性の悪い不動産会社のロゴの入った軌道往還機に、俺は乗り込んでいた。

なんでこうなった? そう、切っ掛けはスマホで見つけた『築5分駅から一年』等という誤植としか思えない広告に、引っ越しを考えていた俺が好奇心に負けて電話してしまったからだ。
「内覧! 内覧だけしましょう!」
電話をして俺が用件を告げた次の瞬間、目の前に担当者を名乗る男がテレポートしてくるとか、思わないじゃん?

駅から一年。すなわち525600分。これに『不動産の表示に関する公正競争規約施行規則』で定められた80mを掛けると、約42000kmになるそうだ。

—体に染みるほど響くメインロケットの噴射が、止んだ。

『有限会社 べねとろんげる不動産』から自社ロケット発射場まで距離にして数千キロ。いや実際はテレポートで一瞬だったけど。そしてそこからロケットで数万数千キロ。合わせて、約42000km。内訳はそう言うことらしい。

「いやー、宇宙にはテレポートできませんよ」
何を無茶なことを。と言わんばかりの担当者の苦笑いが思い出された。基準がわかんねえよ。

【到着まで、あと五分です】
減速フェイズに入るが、その目的地は驚くほどの速さで近付いて来る。ここは地球静止軌道。自律型小型建設機械が、部屋を組み立て始めていた。
成程。築5分。

「どうです? 冷暖房完備。眺望最高。無重力ベッドで腰痛知らず!」
担当者が、明るくセールストークを展開する。
「今なら我社のロケットも使い放題です。……一年間だけ」
後半小さい声でなんか言った?

俺は腕を組み、悩む。到着まであと1分を切った。
そして、唖然として開けなかった口を、電話して以来ようやく開く。

「家賃、いくらですか?」

【おわり】

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※次回は、優秀作品に選ばれた戸山 文さんの「日曜日、フードコートの片隅で」を掲載します。

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一駅ぶんのおどろき

cakes編集部

昨年11月、KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」とnoteが開催した「#一駅ぶんのおどろき」投稿コンテスト。通勤や通学の合間にスマホで手軽に読めて、おどろきや発見があるショートストーリーがたくさん集まりました。本連載では、こ...もっと読む

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コメント

_t55h_ おおっ、このショートショートいい。このコピペ好きだった。 9ヶ月前 replyretweetfavorite

Six_D 掲載されました! 9ヶ月前 replyretweetfavorite