もしも分身の術が使えたら?「来たる分身時代」

昨年11月、KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」とnoteが開催した「#一駅ぶんのおどろき」投稿コンテスト。通勤や通学の合間にスマホで手軽に読めて、おどろきや発見があるショートストーリーがたくさん集まりました。本連載では、このコンテストで受賞されたクリエイター10人の作品を順にお届けしていきます。
本日は、優秀作品に選ばれたプランニングにゃろさんの「来たる分身時代」です。

来たる分身時代/プランニングにゃろ

「ごめんね。私、付き合ってる人がいるの。分身の術でもあったら、あなたとも付き合えたのにね。」

A子のその言葉が全ての始まりだった。

恋は盲目。A子の言葉を本気にした俺は、ネットで分身の術の情報を必死に集め、様々な組み合わせで試してみた結果、なんと本当に分身できてしまったのである。

分身に成功した俺と俺は、もちろん真っ先に喜び勇んでA子の元へ走った。

アゴが落ちそうなくらい唖然とした表情で俺と俺を出迎えた彼女に、早速分身の術を伝授する。目の前に成功サンプルがあるおかげで分身の術の信憑性を説明する手間も無く、A子はあっさりと2人に分身した。

俺と俺は、待ってましたと言わんばかりに、改めてA子とA子に交際を申し込んだが、結果的にどちらのA子も彼氏の方を選択し、俺と俺は再びフラれた。「これでは彼氏の恋人を2倍にしてやっただけではないか!」と、俺と俺はハモって憤慨したが、当然といえば当然だ。1×2は2だが、0×2は0なのである。

さて、分身の術だが、これは完全に同じ人間がもう1人増える術である。

一応、分身の術で新たに生まれた個体には、自分が「分身」であるという自覚はあるが、それ以外は全くオリジナルと同じである。生物学的に同じであるだけでなく、記憶も継承している。さらに孫分身、つまり分身が分身の術を使った場合にも、分身可能である事も分かった。

…というような検証をしている内に、俺は5人に増えていた。よく考えてみると、分身を増やす方法は分かっても分身を減らす方法が分からない。

しかし、せっかく5人になったのだ。なにか有効な活用方法は無いだろうかと、俺と俺と俺と俺と俺は頭を突き合わせて考えてみる。昔なりたかった野球選手やサッカー選手、ゲームクリエイターに凄腕弁護士。5人もいればそれぞれが別の人生を歩む事が出来るのではないかとも思ったが、数が増えても中身は同じ俺なので、よく考えれば、いや考えるまでもなく無理である。ダメ人間が5人に増えても、ダメがダメダメダメダメダメになっただけなのだ。むしろ、食費が5倍になり、部屋もせまくなり、自分の姿が客観的に見えるようになった分、ますます自分のダメさ加減を自覚しただけだった。

だがもしかすると、世の中には分身の術で幸せになれる人もいるかもしれない。そう思った俺たちは、分身の術の実践方法をネットで公開してみた。

しかし、これが良くなかった。久しぶりにテレビをつけてみると、なにやら世間が騒がしい。どうやら俺たちが公開した分身の術が世界中に拡散され、様々な事件を引き起こしているようだ。世界の各都市で分身を使った犯罪が多発し、急激な人口増加によって食料問題が深刻化、さらには各国で分身の軍事利用が強行され、あれよあれよと言う間に第3次世界大戦にまで発展してしまった。これにはさすがに責任を感じたが、もはや俺たちにはどうする事も出来ない。

数年後、なんとか戦争は終結したものの、多くの命が犠牲になってしまった。俺たちも例外では無く、戦火の中で次々と倒れ、俺は再び1人になっていた。

そして、1人に戻った今、しみじみと思う……。

やはり、人間は1人しかいないからこそ貴重であり、だからこそ1つ1つの選択に価値がある。分身がいれば…なんて思う前に、1人でも精一杯やりたい事をやって生きるべきだ。そう、人間に分身の術など必要無いのだ!





なぁ〜んて事、分身の俺が言えた義理ではない。

<完>

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※次回は、優秀作品に選ばれたれおんさんの「私道」を掲載します。

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一駅ぶんのおどろき

cakes編集部

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