30過ぎて、皆がうらやむ結婚をするも
思えば女の一生は、妊娠を心配する10代20代に次いで、不妊を心配する30代40代が始まり、子供ができない身体になって終わる。高校生や大学生は基本的に生理が遅れるたびに、酔って甘かった避妊を後悔し、妊娠検査薬を天にかざして祈り、遅れてきた生理に安どの涙を流して生きている。
それは社会人になったところでそうは変わらず、特に内定中や入社直後は、せっかく大企業に受かったのに今妊娠したら台無し、と焦っているし、3年目くらいになったらなったでやっと仕事に慣れ、少しは大きな仕事も任されるようになったのに今妊娠したら台無し、とやはりヒヤヒヤしている。
そして「落ち着いたら」「もう少し貯金ができたら」なんて先延ばしにしていても、給料が減って仕事が増えたこのバブル以降の時代に、仕事が「落ち着く」ことも貯金が「増える」こともあまりなく、気がつけば会社ではそうそう簡単に抜けられない責任ある立場を押し付けられ、しかも仕事は入れ込んでやれば結構楽しく、女の生殖機能がどんどん衰えていることに気がつかないまま、〝まだ早い・今は無理〟を繰り返し、気付けば30代後半に突入していることすらある。
低用量ピルが一般的な女性の間でもかなり定着し、中絶件数が減っているのはある意味喜ばしいっちゃ喜ばしいのだろうが、避妊知識とピルが広まったことで、もうできちゃったし堕ろすの嫌だしタイミング悪いけど産んでしまえ、という結果オーライな決断も減っているような気がする。みんなしっかりピルで生理と避妊を管理して、〝まだ早い・今はだめ〟と思えばきちんと望まない妊娠を避けてしまえる。
実際、未婚の女と話していても、一生子供はいらないという女は少なくて、〝結婚する気がない・旦那はいらない〟と考えていても子供はいつかは欲しいと思っているのはわりと普通で、けれど私も含めて同級生たちはついに、「今から急いで妊娠しても高齢出産」の年齢に突入してしまった。
最近熱心に婦人科に通っている彼女もそんな悩める35歳なのだが、実は昨年結婚したので、やや周回遅れではあるものの人生自体は順調に結果を出している。相手は千葉県内の自動車整備工場2代目社長で、経済的には文句なく、友人の紹介で知り合って半年で入籍した。彼女自身も都内の医療系企業でマーケティングの仕事を続けており、主任となった今は自由に使える部下もいてかなり充実した仕事ライフを送っている。
「結婚はして本当に良かったと思ってる。彼いい人で、純日本人だけどちょっとハーフっぽいイケメンで、友達に紹介してもかっこいいって言ってもらえるレベルだし、お父さん生きてるけど、もう社長だから忙しいとはいえ時間もわりと自由に使えるし、私の方がむしろ遅くなったり土日出たりしても全然にこやかに合わせてくれる。旅行好きとか、休みあれば家でゴロゴロよりもどっか出かけようみたいなところも似てて、お互いストレスはあんまりない」
正直、30過ぎて、全く新しく最近出会った人と順調にゴールイン、なんていう話はわりと少ないし、彼女の結婚エピソードは30代女を勇気づけるとともに、嫉妬に近い羨望の対象にもなっている。彼の年収は4桁、自分の年収もかなり良い3桁、若干都心から遠いものの彼の実家にほど近い、彼の父親所有のマンションに入居したため家賃はゼロ。旅行や買い物の資金には事欠かない。彼女自身もその幸運は素直に受け止めてはいる。
ただ、最近食事などで一緒になると、結婚直後の安堵と一点の曇りも文句もない幸福感とはまたちょっと違った、若干擦れたような気難しい雰囲気を漂わせるのだ。お酒でも入ろうものなら話は止まらない。
あのときの子、産んどきゃよかった
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